放蕩王子は仲間を手に入れた
「殿下はムーンライト公爵令嬢様のことをどう思っていらっしゃいますか?」
「……どう、とは?」
セシリアの質問の意図が分からず、クリスハルトは聞き返してしまう。
そんなクリスハルトの反応にも関わらず、セシリアは再び質問をする。
「言葉通りの意味です。殿下にとって、ムーンライト公爵令嬢様はどのような方なのかを知りたいだけです」
「ふむ……」
セシリアの言葉を聞き、クリスハルトは考え込む。
質問の意図はわからない──だが、どうやら彼女はそれを知りたいようだ。
ならば、しっかりと答えないといけない、とクリスハルトは考えた。
「俺にとって、レベッカはただの婚約者だ」
「つまり、好きではない、と?」
「いや、どちらかというと好意はあるかな」
「なら、どうして今回のようなことを?」
クリスハルトの答えにセシリアは思わず聞いてしまう。
彼が今回の作戦を決意したのは、てっきり婚約者であるレベッカとの仲があまりよくないことが理由だと思っていた。
しかし、クリスハルトはレベッカに対して好意はあると言っている。
そこに疑問が生じたのだ。
「ああ、勘違いしているようだが……俺の好意は「男女の恋愛感情」という意味ではないぞ」
「はい?」
クリスハルトの言葉にセシリアは首を傾げる。
今度は言っている意味が理解できなかった。
流石にそれだけでは理解されないだろうことはわかっていたのか、クリスハルトは説明をする。
「俺はレベッカのことは高く評価している。公爵令嬢という身分に胡坐をかかず、努力を続けている姿は立派だと思う。それに結果もついてきているからこそ、今の彼女の評価があると思っている」
「「人間として好き」ということですか?」
「まあ、そういうことだな」
「では、男女関係としてはどう思っていますか?」
「……それはわからないな」
「わからない、ですか?」
クリスハルトの言葉にセシリアは首を傾げる。
クリスハルトはフィルとセシリアの関係についてしっかりと考察しており、そういう気持ちには聡いものだと思っていた。
しかし、クリスハルトは「自分の気持ちが分からない」と言っているのだ。
疑問に思って当然だろう。
「この婚約は俺が8歳のときに成立したものだ。その時からの付き合いだから、今更レベッカとの恋愛感情を聞かれてもわからない」
「……」
「それにレベッカも俺のことを「男として好き」とは思っていないはずだ」
「どうしてそんなことを言えるんですか?」
クリスハルトの説明にセシリアは聞き返す。
自分のことを理解できないのはまだ理解できる。
だが、どうしてレベッカのことははっきりと断言できるのだろうか?
そこが理解できなかった。
そんなセシリアにクリスハルトは説明をする。
「この婚約はどういう意味があるか理解できるか?」
「え? 王家と公爵家の縁を繋ぐため、ではないのですか?」
セシリアは少し悩んでから答える。
婚約とは両家の縁を繋ぐために行われることが多い。
普通に考えれば、その可能性が一番高いと思われるが……
「ムーンライト公爵家に今さらそんなことをする理由はない。すでに貴族の中でもトップクラスの権力があるんだから」
「では、どういう意図が?」
「俺の立場を確立するため、だな」
「立場を確立、ですか?」
セシリアは聞き返す。
到底、王家と公爵家の婚約から聞くはずのない言葉が聞こえてきたからだ。
だが、クリスハルトは真剣な表情だった。
「俺が元々子爵家で生まれたことは話しただろう?」
「ええ、聞きました」
「王家の血を引いているという理由で王族となったが、俺には後ろ盾がないんだ。そういうのは普通、王家じゃない方の親の実家がなるものだからだ」
「……たしかにそうですね」
クリスハルトの説明にセシリアは納得する。
第二王子のハルシオンには王妃の実家である公爵家が後ろ盾となっている。
クリスハルトにはその後ろ盾が存在しないのだ。
リーヴァ子爵家が残っていたとしても、後ろ盾としてはあまりにも弱すぎる。
つまり、クリスハルトとレベッカが婚約したのは……
「この婚約はムーンライト公爵家が俺の後ろ盾でとなるために決まったことだ。それが俺の立場の確立につながるわけだ」
「……なるほど」
セシリアは少し考え、納得する。
この説明に否定をする要素はない。
ムーンライト公爵家の思惑はわからないが、クリスハルトの後ろ盾になることが目的なのは事実だと思われる。
もしかすると、善意でやっているのかもしれない。
現状、ムーンライト公爵家が王妃を輩出したとしても、そこまで大きな恩恵があるわけでもない。
すでにかなり大きな家なのだから……
「そんなわけだから、レベッカの方も俺への好意があるわけじゃないだろう。なんせ、この婚約は王家と公爵家の間で決まった政略結婚難だから……」
「それ、本人に聞きましたか?」
「なに?」
「ムーンライト公爵令嬢様の本心を殿下は直接聞きましたか?」
セシリアは質問をする。
クリスハルトの側に恋愛感情がない事は理解できた。
婚約自体もクリスハルトのためとはいえ、政略結婚であることは事実なのだろう。
だが、レベッカの気持ちだけはクリスハルトの推測だった。
そこは推測で話していいものではない、セシリアはそう判断した。
「いや、聞いていないが……」
「なら、直接聞くべきではないでしょうか? 相手がどう思っているか、婚約者ならば聞くべきでしょう」
「む……」
セシリアの言葉にクリスハルトは言葉を詰まらせる。
言っていることは正論であり、反論することができなかった。
「一度、話し合ってもいいのでは? それからでも遅くはないと……」
「いや、もう遅い」
「はい?」
セシリアは諫めようとしたが、クリスハルトは首を横に振った。
その反応にセシリアは呆けた声を出してしまう。
そんな彼女の反応を気にすることなく、クリスハルトは悲しげな表情を浮かべる。
「たとえレベッカが俺のことを好きだったとしても、もうすでに遅いんだよ。俺は第一王子としての評判を落としすぎた。今も彼女の婚約者を名乗っていることすら奇跡なんだよ」
「そんなことは……」
クリスハルトの言葉をセシリアは否定しようとする。
しかし、彼女が何か言う前にクリスハルトの話は次に進む。
「知っているか? ムーンライト公爵家にはレベッカに対する婚約の打診が幾度となく来ているらしい。まだ俺と婚約しているのにもかかわらず、な」
「それは……」
「もちろん、俺との婚約を理由にすべて断っているらしい。だが、何時までもそんな状況が続くわけがないだろう。俺のせいでそんな婚約の話が来るぐらいだからな」
「……」
クリスハルトの言葉にセシリアは何も言えなくなった。
どうやらクリスハルトは後悔しているようだった。
しかし、クリスハルトはもう引き返せない所まで来てしまっていたのだ。
「俺はレベッカには幸せになってもらいたい。そのため、婚約者としてできる限りのことはしようと思ってな。協力してくれるか?」
「……わかりました」
クリスハルトの頼みにセシリアは頷いた。
ここまで聞かされたら、断ることなどできるわけがない。
こうして、クリスハルトは二人の仲間を手に入れた。
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