放蕩王子は王家の内情を説明する
「はぁ……それでどうして私たちに声をかけたのかしら?」
落ち込むフィルを見て、セシリアは大きくため息をつく。
そして、クリスハルトへ質問をしたのだ。
彼が二人の事情について詳しいのは理解できた。
しかし、なぜ自分達を選んだのか、理由が分からなかったのだ。
「それはもちろん、協力してもらいやすい、と思ったからかな?」
セシリアの質問にクリスハルトは答える。
しかし、そんな答えにセシリアは納得しない。
「本気でそんなことを言っているのかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「私たちの交際が認められていないからそんなことを言っているんでしょうけど、あなたの手助けはいらないわ。私たちは自分の力で交際を認めてもらうわ」
セシリアははっきりと拒絶をした。
相手の困っていることにつけこみ、協力させようとするやり方が気に入らなかった。
クリスハルトにも事情があるのは理解しているが、わざわざそんなことのために彼の協力は必要ないと思っていた。
「まあ、無理だろうな」
「何ですって?」
「現状でお前たち二人の交際が認められないのは火を見るよりも明らかだ。なぜなら、今まで二人が自分たちの力でやってきて、認められていないのだから」
「……」
クリスハルトの言葉にセシリアは反論できない。
勢いよく啖呵を切ったが、彼女にもどうやったらいいのかわからなかった。
やり方が気に入らないというだけで断っただけに過ぎない。
クリスハルトにもそれはわかっていたのだろう。
だからこそ、彼は二人に──いや、セシリアに協力してもらうためのカードを切った。
「俺はセシリア嬢と同じなんだよ」
「は?」
「俺はもともと子爵令息だったんだよ。それが何の因果か、第一王子になってしまった」
「っ!?」
クリスハルトの言葉にセシリアは驚く。
「同じ」とはどういうことかと思ったが、まさか「同じ境遇」であるとは思わなかった。
フィルも驚いていた。
まさか一国の王子が男爵令嬢であるセシリアと同じ境遇であるなど、誰が思うだろうか……
驚く二人にクリスハルトは先ほど話すことのできなかった事情を説明する。
「俺の母親はリーヴァ子爵家の令嬢だった。縁があって、城で働くことができた。しかし、あることを理由に仕事を辞め、リーヴァ子爵領に戻ってきた」
「それって……」
「陛下と一夜を共にしてしまったんだよ」
「「っ!?」」
クリスハルトの言葉に二人は驚愕する。
まさかの王家のスキャンダル、そんなものをいきなり聞かされて驚かないはずはない。
「どういう状況でそうなったのかはわからない。だが、母が後悔していたのは確実だ。だからこそ、城で働くことを諦め、実家に帰ってきたんだ」
「殿下はそのときにできた子供、ということですか?」
「そういうことだな。流石に王妃との間に生まれた子供でないから、表に出すことは止めた方が良いと祖父が判断したんだろう、7歳まではリーヴァ子爵領で過ごすことになった」
「それから王族となった?」
クリスハルトの説明にフィルはそう質問する。
フィルの質問にクリスハルトは首を横に振る。
「いや、違う。7歳の時に祖父が亡くなり、子爵を継いだ叔父に引き取られて王都で過ごすことになった。だが、夫人とその息子に酷い虐待を受け、思わず屋敷から飛び出してしまった。その時には8歳になっていたがな」
「……」
「そのときにムーンライト公爵家の人間と偶然知り合った。そして、自分に王家の血が流れていることを知った」
「どうして知ったんですか? そんなに簡単にわかるものでは……」
フィルは思わず質問してしまう。
事情は理解できたが、クリスハルトが王家の血を引いていることなんて、そう簡単にわかるものなのか疑問に思ったからである。
「髪の色だよ」
「髪の色、ですか?」
「王家の血を引く者は綺麗な金色になるんだよ。俺のように、な」
「……たしかに金色ですね」
「公爵は幼いころの陛下を知っていたようだから、それも確信した理由の一端でもあるかな」
「幼いころの陛下に似ていた、ということですね」
クリスハルトの説明にフィルは納得する。
血が繋がっているのであれば、親と子はかなり似てくる。
それぐらいの知識はフィルにもあったのだ。
「事情は理解できました。ですが、それがどうして殿下が廃嫡することにつながるのですか?」
今まで黙っていたセシリアが質問をする。
クリスハルトが彼女と似たような境遇であることは理解できた。
しかし、どうして彼が今の第一王子の立場を自分から捨てようとするのか、それが理解できなかったのだ。
お金と幸せの相関系の話ではないが、第一王子という立場はかなり幸せな部類ではないかと思ったのだ。
「俺の存在が国を混乱に巻き込むからだ」
「国を混乱に?」
クリスハルトの言葉にセシリアは聞き返す。
いきなり壮大な話になったからである。
王族は国の中枢にいる存在ではあるが、クリスハルトが一人いる状況で国が混乱するとは到底思えなかった。
しかし、クリスハルトが真剣な表情を浮かべていることから、それが事実なのだと理解できた。
「自分で言うのもなんだが、俺はいわゆる【天才】という奴だ」
「【天才】? たしかにAクラスには入っていますが、そこまで言うほどでは……」
クリスハルトの言葉にフィルが反論する。
クリスハルトの成績は決して悪くはないし、Aクラスに入っていることから頭が良い事は理解できる。
しかし、自分で【天才】と言うほどのことではないと思うが……
「そんなもの、手を抜いていたに決まっているだろう」
「え?」
「俺が本気を出して、学年首席を取ってみろ。それが原因でまたおかしなことになってしまう」
「おかしなこと、ですか?」
フィルは首を傾げる。
言葉通りにとって、クリスハルトが手を抜いていたとする。
だが、彼が学年首席を取っていたとして、何がどう変わるのだろうか、と。
フィルは理解できていなかったようだが、セシリアはある考えに至る。
「殿下の方が次期国王にふさわしい、と周囲におもわれてしまうこと、ですね」
「その通りだ」
「え? どういうこと?」
セシリアの言葉をクリスハルトは肯定する。
相変わらず、フィルはわかっていないようだった。
「優秀な王子と無能な王子、次期国王にふさわしいのはどちらかしら?」
「それはもちろん、優秀な王子だろ?」
「そういうことよ。第二王子が無能とまではいわないけど、殿下より劣っていたと周囲が判断したら、どうなるかしら?」
「それは殿下が選ばれるんじゃ……」
セシリアの説明にフィルは答える。
どうやら、そこまでは理解できているようだった。
「でも、殿下が次期国王になることを嫌がる者たちもいる。それがどういう人たちかわかる?」
「え? それは殿下が次期国王になったことで、今までの利権がなくなってしまう者達、かな?」
「……そっちが先に出てくるのね」
「え? 違った?」
セシリアの反応にフィルは慌てる。
自分の中では正解だと思っていた内容だったので、彼女の反応に困惑してしまう。
「いいえ、そっちも正解よ。でも、問題になってくるのは違う方なのよ」
「違う方?」
「殿下が王妃の血をひいていないこと、第二王子が王妃の実子である、ということよ」
「あっ」
フィルもようやく理解することができた。
そして、今までの情報から、どうしてクリスハルトが国の混乱の原因となるかも想像することができた。
「優秀であるなら殿下、血を重視するなら第二王子──そんな風に分かれてしまうのか」
「そういうことね」
「次期国王は国の中枢で決められること──そこで二つに意見が分かれてしまえば、国の混乱につながる、ってことだな」
「正解よ」
「よしっ」
セシリアの言葉にフィルは喜ぶ。
素直な反応をするフィルを見て、クリスハルトは思わず生暖かい目をしてしまう。
フィルのように素直になれていたら、もう少し幸せになっていたのかな……そんな風に思ってしまった。
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