表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/104

放蕩王子は問題を指摘する

セシリアがどうしてレイニー男爵令嬢になったのか、についての話です。





「フィル=クラウド、お前はクラウド商会についてどのように思う」

「どのように、って……」


 クリスハルトの言葉にフィルはどう答えていいのかわからなかった。

 しかし、これは質問の仕方も悪かった、とクリスハルトは気付いたので、聞き直すことにした。


「クラウド商会はこのサンライズ王国において、どのぐらいに位置していると思う?」

「え? 中堅だから、真ん中あたりかな?」


 クリスハルトの質問を理解し、フィルは答える。

 流石にそこまで言われれば、きちんと答えることはできた。

 しかし、きちんと答えたことで話は進み、フィルを傷つけることになる。


「その時点で駄目なんだ」

「えっ!? どうして?」


 クリスハルトの言葉にフィルが驚く。

 どうして駄目なのか、まったく理解していないようだった。

 彼からすれば、どうしてクラウド商会が駄目なのか理解できていないのだ。


「クラウド商会の特徴を言ってみろ」

「え? 貴族から平民まで幅広く商売の手を広げ、安定した売り上げを出している、かな。だけど、これは良い事では?」

「まあ、そうだな。このサンライズ王国を支える商会の一つとしては、立派に役割を果たしていると言えるだろう」

「だったら、俺とセシリアが結婚できない理由がクラウド商会である理由がわからないんだけど……」


 フィルは思わず反論してしまう。

 クラウド商会がサンライズ王国の商売において重要であることはクリスハルトも認めている。

 それなのに、どうしてクラウド商会が交際の妨げになるのか、まったく理解できなかった。

 そんなフィルにクリスハルトは指摘する。


「クラウド商会より稼いでいる商会は他にもあるだろう?」

「っ!?」


 クリスハルトの指摘にフィルは言葉を失う。

 ストレートにそんなことを言われるとは思わなかったからである。

 そんなフィルの様子に気づいているのか、クリスハルトはさらに説明を続ける。


「たしかにクラウド商会は稼いでいるかもしれないが、それでもせいぜい中堅どまりだ。それよりも稼いでいる商会はあるし、貴族でも金を持っている家はあるはずだ」

「……それはそうだけど、幸せはお金で決まるものじゃないでしょう?」

「まあ、それはその通りだ。金があったとしても、決して幸せになるわけではない──それは俺がまさに証明していることだな」

「だったら……」


 クリスハルト自身が金と幸せの相関関係がない事を認めたことで、フィルはさらに反論しようとする。

 ならば、フィルとセシリアの交際が認められないのはクラウド商会のせいではない、と思ったのだが……


「だが、金があるに越したことはないだろう?」

「っ!?」


 クリスハルトの指摘にフィルはまた言葉を失う。

 それを言われてしまえば、何も言えなくなる。

 別に金がなくとも、幸せに生活をしている人はいるだろう。

 だが、何の制限もないわけではないのだ。

 お金があることにより、いろんなことをすることができるようになるのだ。

 それが幸せにつながることも否定はできない。


「レイニー男爵がセシリア嬢を可愛がっていることは有名な話だ。元々、兄弟仲は悪くはなかったようで、亡くなった兄の代わりにセシリア嬢を幸せにしようとしているのだろう」

「……」


 クリスハルトはレイニー男爵について話を始める。

 セシリア嬢はレイニー男爵の兄の娘──男爵から見れば、姪にあたる。

 本来は兄であるセシリア嬢の父親が男爵位を継ぐはずだったが、彼は使用人の女性と駆け落ちして平民となってしまったのだ。

 その結果、弟がレイニー男爵を継ぐことになった。

 だが、弟はそのことで兄を恨んでいたわけではなかった。

 兄と使用人の女性の仲は男爵家のほとんどの人間が知っており、祝福されていたはずであった。

 しかし、それを前男爵だけは認めなかった。

 貴族である以上、平民と結婚するようなことはあってはならない──そんな化石のような古い考え方をしていたのだ。

 その結果、兄は反発するように家を出て行ってしまった。

 兄が出て行ってしまったことにショックを受けた前男爵はみるみるうちに衰弱していき、一年も経たずに亡くなってしまった。

 それを機に、弟が男爵位継いだのだ。

 父親が亡くなったことを弟は兄に伝えなかった。

 兄は愛する女性のために貴族であることを止めたが、決して親子の情が亡くなったわけではない。

 父親のことが兄の幸せの妨げになってはいけない、そう考えたからである。

 自分が関わることも父親を彷彿させるかもしれない──そう考えた弟はできる限り兄とは関わることはしなかった。

 しかし、その決断が良くなかった。


 3年前、とある地域で流行り病があった。

 レイニー男爵領ではないが、比較的近い場所で起こっていたので弟は警戒をしていた。

 そのおかげもあってか、レイニー男爵領ではその流行り病に罹った者はほとんどいなかった。

 そのことに弟は安堵した。

 しかし、すぐにその安堵は終わってしまう。


 兄が死んだという情報が入ったのだ。

 兄とその家族が住んでいたのは、流行り病が起こった地域だった。

 そのせいで兄と妻は命を落としてしまい、セシリアだけが一人残されてしまった。

 12歳の子供が一人でこれから生活することなどできない、しかし身寄りがない子供を引き取る余裕など流行り病が起こった地域に住む人にはなかった。

 どうすべきか悩んでいるとき、兄の遺品からレイニー男爵家の紋章が入ったボロボロのハンカチが発見された。

 それは弟が子供のころに兄の誕生日に渡したプレゼントだった。

 家を捨てても、弟との過ごした日々を忘れないために持ってきていたのだ。

 そのハンカチによりセシリアの家族がレイニー男爵家とかかわりがあることが分かり、レイニー男爵家に引き取られることになった。


 セシリアを初めてみたとき、レイニー男爵は思わず涙を流してしまった。

 兄と妻の面影を残した少女が一人で男爵邸に来たことで、すでに二人が命を落としたことに気づいてしまったからだ。

 初めて出会った男性にいきなり涙を流され、当時のセシリアはかなり驚いた。

 優しい彼女は緊張していたにもかかわらず、男爵を慰めようとしてくれたのだ。

 そこに男爵は兄の姿を垣間見た。

 兄は困っている人に手を指し伸ばさずにはいられない優しい人であった、と。

 それは娘であるセシリアにも受け継がれている、と。

 そして、それがレイニー男爵にある決意をさせた。

 男爵が兄の代わりにセシリアを幸せにする、と。

 その一つとして、彼女が幸せになる結婚相手を探してあげることだったわけだが……


「クラウド商会程度では力不足だと思ったんだろうな」

「うぐ……だが、どうしてそんなことを知っているんだよ」


 クリスハルトの指摘にフィルは言葉を詰まらせるが、すぐに反論しようとする。

 この話は全てレイニー男爵領とその付近で起こった話のはずだ。

 それなのに、どうして王都にしかいるはずのないクリスハルトが知っているのか……


「だから言っただろう? 俺は情報を集めるために、フラフラと城下を歩いている、と」

「……そこで集めた、ってのか? 男爵の気持ちとか、そんなものまで集められるのかよ」


 クリスハルトの言葉にフィルはさらに反論する。

 情報を集めることはできるのかもしれないが、人の気持ちを集めることができるとは到底思えない。

 流石にこの反論にはクリスハルトも首を振る。


「いや、レイニー男爵の感情については俺の想像だな」

「だったら、断られた理由だって、あんたのでまかせじゃないのか?」


 クリスハルトが否定したことでフィルは反論の勢いを強める。

 だが、そんなフィルをクリスハルトはバッサリと切る。


「たしかに感情については俺の想像ではあるが、お前とセシリア嬢の交際が認められていないのは事実だろう?」

「うっ……」

「レイニー男爵家の内情についての情報も事実のはずだから、そこからもレイニー男爵がどんなことを考えているのかを想像することはできないわけじゃない。少なくとも、セシリア嬢の幸せを願っていることは確実だ。お前はそれすらも否定するのか?」

「うぅ……」


 クリスハルトに言い負かされ、フィルは落ち込んでしまう。

 これは完全に彼の負けだった。






個人的に作者は身寄りのない子供を救わないといけないという気持ちになるタイプです。

「R〇VE」の解放軍や「〇NE PIECE」の〇ひげにものすごく共感するぐらいですから……

人にとっては全く違う考えを持つ人もいると思いますが、そういう考えを持つ人もいると思って流していただけると幸いです。


作者の執筆のモチベーションに繋がりますので、「面白い」「続きを読みたい」と思ってくださった方はぜひともブックマークと評価をお願いします。

勝手にランキングの方もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ