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放蕩王子は説明する

クリスハルトの計画のための協力者集めです。




 二人は少しの間茫然としていたが、フィルが口を開く。


「……冗談ですか?」

「冗談でこんなことを言うと思うか? だとしたら、俺のジョークセンスは最悪だと思うぞ」

「……」


 クリスハルトの言葉にフィルは答えることができなかった。

 認めてしまえば、クリスハルトのことを馬鹿にしたことになってしまう。

 【放蕩王子】などと馬鹿にされているとはいえ、クリスハルトに直接そんなことが言える者などいるはずもない。

 だからこそ、フィルは答えることはしなかった。

 しかし、セシリアの方は肝が据わっているのか、そんなクリスハルトに臆することなく質問をする。


「お言葉ですが、第一王子様は正常な判断ができていないと思いますよ」

「セシリアっ!?」


 セシリアの言葉にフィルは驚く。

 明らかにクリスハルトのことを馬鹿にしている物言いであり、そんなことを言われれば誰でも怒ってしまうと思った。

 不敬罪に問われてもおかしくはない、そう思ったのだが……


「まあ、普通はそう思うだろうな」

「え?」


 クリスハルトから返ってきたのは肯定であった。

 そんな彼の反応にフィルは驚いてしまう。

 先ほどのセシリアの発言に怒っていないのだろうか?

 フィルの反応にクリスハルトは説明する。


「俺の第一王子という立場を考えれば、それを自ら捨てることはまさに愚の骨頂ということは理解しているさ」

「怒っていないんですか?」

「怒る? 自分が認めていることを指摘され、怒る奴はいないだろう」

「……ならいいです」


 クリスハルトが怒っていないことを確認し、フィルは一安心する。


「さて、二人に協力してもらうにあたって、俺の事情について説明を……」

「あの、いいですか?」

「なんだ?」


 クリスハルトが説明を始めようとした瞬間、セシリアがストップをかける。

 話そうとした瞬間に止められたことで、クリスハルトは思わず嫌そうな表情を浮かべる。

 そんな彼の表情にフィルの内心はひやひやしていた。

 先ほどは「怒っていない」とは言っていたが、今後も「怒らない」とは言っていないのだ。

 つまり、この先何か怒らせるようなことをしてしまえば、不敬罪に問われることもありうるわけだ。

 そこに気づいたフィルはセシリアを止めようとするが……


「私たちは別に貴方に協力すると言ったわけではありませんが?」

「セシリアっ!?」


 止めることは叶わなかった。

 セシリアははっきりとクリスハルトに拒否の言葉を突き付けてしまった。

 これはかなりまずい。

 王族から協力を頼まれているのに、それをあっさりと跳ね除けてしまったのだ。

 普通の貴族であれば、そんなことができるはずもない。

 セシリアだからこそ、できることなのだ。

 まあ、それが良い事ではないのだが……


「くくっ、まさか真正面から断られるとは思わなかったな」


 セシリアに断られたクリスハルトはなぜか笑っていた。

 先ほども思った事ではあるが、クリスハルトもまた普通とはどこか違うように思える。

 こんなにあっさりと断られたら、普通の貴族ならば怒って当然なのだ。

 しかし、彼はあっさりと受け入れているのだ。

 フィルからすれば、どう反応していいかわからなくなる。

 だが、少ししてから再び口を開いた。


「二人の交際は反対されているんだろう?」

「「っ!?」」


 クリスハルトの言葉に二人は驚愕してしまう。

 その内容は二人の秘密──正確に言うと、二人それぞれの家の間での話で、まだ外部に漏れるような段階の話ではないからだ。

 しかし、そんな情報をクリスハルトはこともなげに口にした。

 それだけで驚いてしまうのは当然であろう。

 驚きつつ、フィルは質問をする。


「一体、どこでそれを……」

「俺が周囲からどのように呼ばれているか知っているか?」

「? えっと、【放蕩王子】ですか?」


 クリスハルトの質問にフィルは戸惑いながら答える。

 この質問の意図がわからなかったからである。

 到底、二人の交際が認められていないことを知る理由にはならないと思ったのだが……


「そうだ。その名の通り、俺は普段から城下でフラフラと過ごしている」

「それが一体?」

「俺がただただ遊び惚けているだけだと思うか?」

「えっと……」


 クリスハルトの質問にフィルは答えることができない。

 クリスハルトの言う通り、ただただ遊び惚けているだけだと思っていた。

 しかし、彼の反応からして、それはないのだろう。


「まあ、いろんなところに顔を出して、王子としての仕事は何一つしていなかったから仕方がないだろうな」

「つまり、遊び惚けていた、と?」

「違う。俺の目的のためにいろいろな情報を集めていたんだよ」

「え?」


 クリスハルトの言葉にフィルは驚く。

 どうして第一王子がそんなことを?──という疑問からの驚きであった。

 流石に驚かれるのは理解していたのか、クリスハルトは説明を続ける。


「元々、俺が廃嫡するために事前の準備として、いろいろと情報を集めていたんだよ。着の身着のままで放り出されるわけにもいかないからな」

「まあ、王族の人間がそんなことになれば、待っているのは「確実な死」でしょうからね」

「そういうことだ。そして、それと同時にどうやって廃嫡になるのか、その方法のための情報も集めていた」

「……それが俺たち二人と言うことですか?」

「そういうことだな」


 フィルの言葉にクリスハルトは頷く。

 しかし、フィルはまだ理解できていなかった。

 どうして自分たちが選ばれたのかについて。


「たしかに俺たちはレイニー男爵に交際を断られています。ですが、それは自分たちで解決すべき問題で、いくら第一王子殿下でもご助力は……」

「自分達で解決する算段はあるのか?」

「うっ!?」


 クリスハルトの指摘にフィルは言葉を詰まらせる。

 助力はいらないと啖呵を切ろうとしたが、現状では自分たちで解決できるとも思っていなかった。

 素直に助けてもらった方が良いのかも、と日和った考えもあったぐらいだ。

 そんなフィルの様子にクリスハルトは質問する。


「そもそも、どうしてレイニー男爵がお前たちの交際を認めていないのか、理解しているのか?」

「え?」


 クリスハルトの質問にフィルは呆けた声を漏らす。

 どうやらまったく理解していなかったようだ。

 そんな状況で良く啖呵を切ろうとしたな、とクリスハルトは呆れてしまった。

 だが、セシリアの方は思うところがあったようだ。


「フィルが平民だからでしょうか?」

「まあ、一番の原因はそこだろうな」


 セシリアの言葉にクリスハルトは頷く。


「フィル=クラウド──サンライズ王国内で中堅の商会である【クラウド商会】の跡継ぎなんだろう」

「俺のこと、知っているんですか?」


 自分のことを話され、フィルは驚いてしまう。

 まさか一国の王子に自分のことを知られているとは思っていなかった。

 しかも、まったく間違っていない情報として……

 だが、必要な情報はそこではない。


「おそらくレイニー男爵が二人の交際を認めていないのは、この【クラウド商会】が原因だろう」

「っ!? どういうことですか?」


 クリスハルトの説明にフィルは驚き、質問をする。

 どこか馬鹿にされたようにも感じ、怒りの感情も混ざってしまう。

 たしかに王族からすればちんけな商会かもしれないが、フィルにとっては大事なものなのだ。

 それにサンライズ王国内でも安定した商売ができるほどの規模であることも自負していた。

 しかし、そんなフィルにクリスハルトは事実を突きつける。


「レイニー男爵にとって、その程度の商会の跡継ぎはセシリアを嫁にやる相手としては不足なわけだ」

「なっ!?」



 クリスハルトの言葉にフィルは一気に落ち込んでしまう。

 まさかの言葉にフィルは精神的に大ダメージを与えられてしまったのだ。

 クリスハルトはここまで落ち込むとは思っておらず、少し申し訳ない気持ちがあった。

 しかし、これは伝えておかなければいけないことだったので、後悔はしなかった。






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