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放蕩王子は女子生徒を呼び出す


 放課後、クリスハルトは空き教室に一人でいた。

 なぜ自身の教室でないのかというと、人に見られるのはあまりよくないと考えたからである。

 沈む夕日の差し込む教室に一人いるクリスハルトは何とも様になっている。

 とても【放蕩王子】なんて呼ばれている落ちこぼれには見えない。


(ガラッ)


 教室の扉が開いた。

 クリスハルトは待ち人が来たと振り向く。


「……私に何の用ですか?」


 やってきたのは予想通り──いや、クリスハルトが呼び出したのだから予想通りも何もないのだが、セシリアだった。

 なぜこんなところに呼び出されたのか理解できず、彼女は不信感をあらわにした。

 それは仕方がない事だろう。

 なんせ入学初日の放課後にいきなり呼び出されることなんてあるはずがない。

 あったとしても、呼び出すのは先生が相場であろう。

 しかし、呼び出したのはこの国の第一王子──繋がりは同じクラスの隣の席であること以外はない。

 呼び出される理由としてはかなり弱いはずだ。

 しかも、クリスハルトは【放蕩王子】と呼ばれるほどの落ちこぼれで評判はかなり悪い。

 何をされるのかわかったものではない。


「よく来てくれたな、セシリア=レイニー男爵令嬢」

「……一男爵令嬢が第一王子様の呼び出しに逆らえるわけないでしょう?」


 笑顔で告げたクリスハルトの言葉にセシリアは嫌味で返す。

 いくら落ちこぼれと言われる第一王子だったとしても、身分的にはセシリアよりも圧倒的に上である。

 そんな彼に呼び出されれば、拒否することなどできるはずがない。

 そんなことをすれば、不敬罪で罰せられることだって考えられるのだ。

 そのため、彼女には最初から断る選択肢はなかった。


「それで用件は?」


 セシリアは再び問いかける。

 呼び出された理由が分からない以上、少しでも情報を集めるべきだと判断したのだ。

 クリスハルトがどのように行動したとしても、できる限り対処できるように、と。

 しかし、クリスハルトから返ってきたのは予想外の答えだった。


「今はまだ言えないな」

「は?」


 セシリアは思わず呆けた声を出してしまった。

 呼び出した側の言葉ではないと思ったからである。

 何を理由で呼び出したかは知らないが、理由を聞かれて「まだ言えない」はおかしいであろう。

 このやり取りでセシリアのクリスハルトへの評価が一気に下がった。

 しかし、クリスハルトも何の考えもなしにそんなことを言ったわけではない。


「そろそろかな?」

「……何がですか?」

「役者がそろうのが、さ」

「役者?」


 クリスハルトの言葉にセシリアは首を傾げる。

 この王子は一体何を言っているのだろうか──そんな疑問がセシリアの頭に浮かぶ。


(ダダダダダッ)

「?」


 廊下の外から何か大きな音が近付いてくる。

 誰かが勢いよく走っているのだろうか、歴史あるこの学院ではあまり見られない光景のはずだ。

 一体、どこの誰が?──セシリアは思わずそんなことを考えてしまう。

 そして、どんどんその音が近付き、空き教室の前まで来た。


(バンッ)

「セシリア、無事かっ!」

「フィルっ!?」


 勢いよく扉が蹴破られたとともに一人の男子生徒が入ってきた。

 それはセシリアもよく知る人物であった。


「セシリア、大丈夫か? なにもされていないな?」

「え、ええ、もちろんよ。……それよりもフィルはどうしてここに?」

「セシリアが放蕩王子に呼び出された、って聞いたから」

「え?」


 フィルの言葉にセシリアは驚く。

 なぜなら、セシリアがクリスハルトに呼び出された話は当人たち以外知るはずがないからである。

 セシリアが呼び出されたのは、クリスハルトが教室から出るときにこっそりと直接伝えられたからである。

 それをセシリアは他の誰にも伝えていないし、クリスハルトからそんなことを命令されたとは誰も気づかなかったはずだ。

 そんな状況で違うクラスのフィルが知ることなどできるはずもなく……


「まさか」


 セシリアはある結論に辿り着く。

 この状況でフィルにそんなことを伝えられる人間は……


「そのまさかだな」


 セシリアの視線を受け、クリスハルトは悪い笑みを浮かべる。

 とても悪い事をしたことを後悔しているような反応ではない。

 そんな彼にセシリアは質問をする。


「どうしてフィルを呼びだしたのですか?」

「言っただろう? 役者がそろう、と」

「……何の役者ですか?」


 クリスハルトの説明にセシリアは聞き返す。

 もちろん、言葉の意味は理解できている。

 しかし、だからこそこの状況が理解できないのだ。

 クリスハルトは何を思って、この二人を選んだのか……


「おい、セシリア」


 クリスハルトの言葉に悩んでいると、フィルがセシリアに話しかける。


「何?」

「セシリアを呼び出したのって、もしかして第一王子なのか?」

「それがどうしたの?」

「どうして第一王子がセシリアを呼びだすんだ? まったく関係がないだろう」


 フィルの疑問はまだその時点らしい。

 まあ、彼もまた呼び出されただけなのだから、それは仕方のない事かもしれない。

 おそらく、匿名の呼び出しのはずだろうし……


「同じクラスの隣の席だからよ」

「それだけの理由でっ!?」


 セシリアの説明にフィルは驚愕の表情を浮かべる。

 どこの世界にそんな理由で第一王子が男爵令嬢を呼び出すことがあるのだろうか?

 言った本人であるセシリアですら、未だに信じられない。

 だが、現実に怒っていることなので、信じるしかないのだが……


「ああ、ちなみにセシリア嬢を呼びだしたのは、別に隣の席だけが理由じゃないぞ? まあ、隣の席だった方が都合が良かったけどね」

「……どういうことですか?」


 クリスハルトは笑みを浮かべ、そんなことを告げる。

 その言葉にセシリアはさらにわからなくなった。

 同じクラスの隣の席が都合がいい──言葉通りの意味で取るならば、男性が女性を口説く上で近くにいる方が都合がいい、ということだろう。

 しかし、それならフィルを呼び出す意味がわからない。

 クリスハルトがセシリアのことを口説くのであれば、セシリアの幼馴染であるフィルはただの邪魔でしかないはずである。


 他にも気になることがある。

 クリスハルトはセシリアだけでなく、フィルのことも事前に知っているように思える。

 セシリアのことについても、明らかに同じクラスになった初日に知っているようなことではない。

 つまり、クリスハルトは事前に二人の情報を知っていたと推測され……


「それはもちろん、二人に協力してもらうためさ。この俺──クリスハルト=サンライズを廃嫡するための計画にな」

「「っ!?」」


 いきなり告げられたとんでもない計画にセシリアとフィルは驚きに声も出すことができなかった。

 まさか自分たちがそんな計画を聞かされ、その計画の役者として協力させられるとは思いもよらなかったからである。






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