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放蕩王子は学院に入学する

新章?始まりました。




 7年後──クリスハルトは15歳になっていた。


 クリスハルトは【放蕩王子】と呼ばれるようになっていた。

 その理由は簡単で、いつの間にか姿を消し、ふらりとその辺を歩き回っているからである。

 もちろん、良い意味ではない。

 最初のころに得ていた【天才少年】といった評価も今となっては全く霞んでしまっていた。

 今では第一王子は【出来損ない】の代名詞となっていた。


 それと対比して、第二王子は【天才】の代名詞になっていた。

 兄である第一王子が【出来損ない】であるせいか、それと比較するとかなり出来がいいのだ。

 しかし、第一王子であるクリスハルトはそんなことをまったく気にしない。

 人からどのような評価を得ようが、彼はその生き方を変えることはなかった。


 そんな風に過ごし続け、いつの間にかクリスハルトは待ちに待っていた学園入学の日を迎えた。

 といっても、クリスハルトは別に勉強がしたいわけではない。

 とある目的のため、早く学園に通いたいと思っていたのだ。

 城で過ごしている状況ではその目的を達成することはできない──だからこそ、この時を待っていたのだ。

 まあ、入学したからと言って「sの目的が達成されたわけではなく、さらに準備期間が必要になるわけだが……


「おい、あれって……」

「噂の?」


 クリスハルトが学園内を歩いていると、周囲がひそひそと噂話をする。

 それはまるで珍獣を見るような奇異の視線であり、あまり気分のいいモノではない。

 しかし、これはクリスハルトが選んだ道である。

 こんな視線で見られることは耐えなければいけないのだ。


 そんな視線にさらされながら、クリスハルトは掲示板に辿り着く。

 そこにはクラス発表が掲示されており、人だかりができていた。

 しかし、クリスハルトが近付くと、その人だかりが割れた。

 以前の彼なら申し訳ない気持ちで一杯になったが、今となっては何の気もなしにその中を歩くことができた。

 そして、クラスを確認する。


「Aクラスか……」


 クリスハルトはAクラスに所属することになった。

 Aクラスは最も成績がいい者が集まるクラスで、そのほとんどが高位貴族などの身分が高い者である。

 当然、クリスハルトの成績では入ることができないと周囲は思っていた。

 【第一王子】という権力を使って、無理矢理入ったのでは?──という憶測が周囲の人間の間で飛び交っていた。


「クリスハルト様もAクラスなんですね」

「……レベッカか」


 掲示板を見るクリスハルトの背後から声をかける者がいた。

 それはレベッカ=ムーンライト公爵令嬢であった。

 文武両道、容姿端麗、品行方正──まさに理想の貴族令嬢の評価をほしいままにするクリスハルトの婚約者だった。

 そんな彼女は【王子(・・)】の婚約者としては完璧であった。

 しかし、【第一王子(・・・・)】の婚約者にはふさわしくないとも言われていた。

 その原因は彼女にではなく、クリスハルトにあるわけだが……


「流石はクリスハルト様ですね。勉強を一切していなかったのに、まさかAクラスに入ることができるなんて……」

「嫌味か?」

「いえいえ、私にそんなつもりはありませんよ。ですが、きちんと勉強していれば、Aクラスでも上位にも入れたかもしれないと、思っているだけですよ」

「……そうか」


 レベッカの言葉にクリスハルトは反論しない。

 周囲には公爵令嬢が婚約者である第一王子を批判しているように感じた。

 クリスハルトが自分の責務を放りだし、遊び歩いていることは有名な話である。

 そして、それを婚約者であるレベッカが止めようとするのは当然予想出来ることであった。

 これもその一つと思われるわけだ。

 だが、クリスハルトには彼女の言葉は全く響いていなかった。

 そんな二人の会話を聞き、周囲は二人が不仲であると思ってしまう。

 この国の第一王子と公爵令嬢が不仲である──あまり喜ばしくない情報である。

 だが、そういう噂話の方が簡単に広まってしまう。


「レベッカは学年トップか……」

「ええ、そうですよ。新入生代表のスピーチを任されました」

「そうか、すごいじゃないか」


 レベッカが新入生代表に選ばれたことをクリスハルトは素直に褒めた。

 これは彼の本心であった。

 しかし、周囲はそうとはとらえない。

 もちろん、レベッカもである。


「本来はクリスハルト様がされるべきことですけどね。最も身分が高い──第一王子なんですから」

「たかが身分だけで代表に選ばれるわけがないだろう。学園の規則に【いかなる身分もこの学園内では平等である】と言われているんだ」


 レベッカの言葉にクリスハルトは反論する。

 この学園は平等を謳っており、下級貴族や平民も平等に入学することができる。

 しかし、あくまでもそれは建前でもあった。

 学園内ではその身分差がいじめなどの原因にもなっており、重大な問題にもなっていた。

 そして、その建前はクリスハルトが代表にならなかった理由として使われるべきでは買った。


「そういう意味ではありません。クリスハルト様であれば、学年トップを取ることぐらいは簡単でしょう? それなのに、普段から遊び惚けているから、ギリギリAクラスなんてことに……」

「それは買い被りすぎだ」

「そんなことは……」

「くどいぞ」

「……はい」


 食い下がろうとするレベッカを一括で黙らせるクリスハルト。

 周囲の人間はその光景を見て、第一王子が婚約者である公爵令嬢に無理矢理言うことを聞かせている、と思ってしまう。

 王族と貴族令嬢であるため、身分的にはおかしな話ではない。

 しかし、婚約者同士であるのなら、一方的な物言いは避けるべきことである。

 クリスハルトはそんなことを一切気にせず、公衆の面前でレベッカに恥をかかせたのだ。

 このことでさらに二人の仲が悪い、と周囲は考えてしまった。


 周囲の視線が鬱陶しくなったのか、クリスハルトは掲示板の前から立ち去った。

 もちろん、レベッカとは向かわなかった。

 婚約者同士で同じクラスなのだから、共に向かえばいいのに──周囲はそう思っていた。

 だが、そんな周囲の考えなど気にもせず、クリスハルトは一人で教室に向かっていった。


 Aクラスの教室に辿り着き、クリスハルトは席順を確認する。

 席順は成績順となっており、クリスハルトの席は教室のかなり後ろの方であった。

 それを確認し、クリスハルトは自分の席に移動した。

 そして、周囲を確認する。

 ここに彼の目的とする人物はいるか、と。

 いなかった場合、面倒ではあるが他のクラスまで探さないといけなくなる。


「(……いた)」


 だが、目的とする人物は意外と近くにいた。

 クリスハルトの隣の席に座っていた。


「やあ、初めまして」

「……どうも」


 それはとても可愛らしい女子生徒だった。

 クリスハルトにいきなり話しかけられた彼女は警戒心を露わにする。

 反応からクリスハルトのことを知らないと思われるが、警戒するほどには怪しいと思っているようだった。

 だが、そんなことを気にするクリスハルトではなかった。


「俺はクリスハルト=サンライズだ。今日から隣の席だから、仲良くしたいと思ってね」

「……セシリア=レイニーです」


 自己紹介をされたので、女子生徒──セシリアは答える。

 だが、彼女はまだクリスハルトの正体に気づくことはなかった。


「(……さて、いつ気付くかな?)」


 そんなセシリアの反応にクリスハルトは妙な楽しみ方をしていた。

 クリスハルトが第一王子であることは有名な話であり、基本的に彼の顔を見ることでほとんどの人が判断することができる。

 だからこそ、彼にとってこのような反応は非常に珍しい事なのだ。


「(……ふっ)」


 クリスハルトと視線を合わせるのが嫌だったのか、セシリアは視線をそらしてしまった。

 そんな彼女の様子にクリスハルトは心の中で楽しみになってしまう。

 彼女がクリスハルトの正体に気づいたとき、どんな反応をするのか、と。

 






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