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子爵令息は出生の秘密を知る

同じ状況なのに、前回とは打って変わって……




「あれは9年前だったかな、俺は夜勤で城の警備をしていたんだ」

「まあ、新人だったらそういう仕事もあるだろうな。あれはきつかった」


 相方の言葉に衛兵は感慨深そうにそんな感想を漏らす。

 しかし、本題はそんなことではなかった。

 相方はそのまま話を続ける。


「その警備の範囲の中に妃殿下の部屋付近も入っていたんだ。といっても、そんな夜に妃殿下の部屋を訪れるような奴なんているわけがないんだけどな」

「そもそもそんな不埒なことを考えるような奴がこの城にいないだろう。バレたら、頭と体がおさらばになってしまうだろうし……」

「けど、夜が明ける前に二人ほど妃殿下の部屋に入っていったんだよ」

「一体、誰が……」


 相方の言葉に衛兵は驚く。

 夜に妃殿下の部屋に訪れるなど、とても正気の沙汰には思えない。

 そんなことをする奴が二人も現れるなんて──と、思ってしまったのだ。

 しかし、事態は衛兵も予想だにしない方向に進んでいく。


「その二人はクリスハルト様の母親と先代のメイド長だった」

「というと、二人とも女性ということか? なら、心配ない……のか?」

「まあ、妃殿下にあらぬ疑いがかかるようなことではないのは確かだ。しかし、決して喜ばしい事ではないだろうな」

「どういうことだ?」


 衛兵は首を傾げる。

 朝方に妃殿下の部屋に訪れたのが二人の女性であることは違和感はあれど、そこまで問題があるようには思えない。

 一体、何が喜ばしくないのだろうか、と。


「妃殿下の部屋に入っていく二人は明らかに異常な様子だった。うつむき、暗い表情を浮かべていた」

「……妃殿下に呼び出され、説教をされると思っていたとか?」

「言っただろう? 妃殿下とクリスハルト様の母親は学生時代からの仲良しだと。何らかの失敗をしたら怒られるかもしれないが、そこまで暗い表情を浮かべるほどではないはずだ」

「む?」

「それに先代のメイド長も一緒にいたことが不自然だった。仲が良い事で呼び出されるのだったら、クリスハルト様の母親だけで済むだろう」

「それはたしかに……」


 相方の説明に衛兵は考える。

 しかし、まったく結論が出ない。

 流石に情報が少なすぎたのだ。

 状況を理解できていない衛兵に相方が説明を続ける。


「部屋の中でどんな会話をしていたのかはわからない。だが、その日のうちに二人とも城から去ってしまったんだ」

「クビ、ということか?」

「一応、二人が依願退職ということになっているが、状況から妃殿下によってクビにされたのではと思っている」

「それは……」


 相方の言葉に衛兵は反論しようとする。

 しかし、その言葉を論破できる証拠が全くない。

 しかも、相方はさらなる情報を出してきた。


「クリスハルト様の誕生日はその日から10ヶ月後だ。それが示していることは……」

「二人が妃殿下の部屋にやってきた晩にクリスハルト様の母親は……」


「っ!?」


 衛兵の言葉にクリスハルトは驚き、口を押さえる。

 そうしなければ、思ったことを口に出してしまいそうだったからだ。

 あの二人はクリスハルトが近くにいることに気が付いていない。

 そんな状況でのこのことクリスハルトが出ていくわけにはいかなかった。


 クリスハルトは信じたくはなかった。

 いや、クリスハルトが存在すること自体が国王の不義の証拠であることは最初からわかっていた。

 しかし、それをクリスティーナがしっかりと知っているとは思っていなかった。

 だが、これで納得することができた。

 クリスハルトと最初に会ったとき、クリスティーナがどうしてあのような反応を取ったのか……

 最初から知っていたのであれば、彼女があのような反応をとっても何らおかしくはなかったのだ。


「それは上に伝えたのか?」

「言うわけないだろう。その時点で俺は職を失うか、頭と胴体がサヨナラしているはずだ」

「まあ、そんなはっきりとした証拠を知っている人間を生かしておくメリットはないだろうからな」

「とりあえず、俺がこの話を知っていることは誰にも言うなよ」

「わかってるよ。流石に仲の良い相方が急にいなくなるのは勘弁だしな」

「もしばらしたら、お前も知っていることをバラすからな?」

「おい、それは卑怯だろ」


 二人は苦笑しながら話す。

 笑顔で話すような内容ではないが、真剣に話したわけでもないのだろう。

 ちょっとした同僚の冗談として、そんなことを言っていたに違いない。

 二人にとってはその程度の内容かもしれないが、クリスハルトにとっては冗談にすることもできない内容であった。


「だが、これでクリスハルト様の母親が妃殿下に嫌われている理由はわかっただろう?」

「まあ、そこまで伝えられたらな……つまり、可愛がっていた妹分に裏切られた、ってことだろう?」

「俺はおそらくそう思っているよ。でも、理由はそれだけではないと思うんだ」

「なに? 他にもあるのか?」


 衛兵たちはさらに会話を続けていく。

 クリスハルトはこれ以上聞きたくはないと思っていた。

 しかし、衝撃事実を知ったあまり体がいうことを聞かず、ここから立ち去ることができないのだ。

 そんな状況でも二人の会話は耳に入ってくる。


「年齢的にクリスハルト様は「第一王子」になっただろう? そして、クリスティーナ様の実子であるハルシオン様は「第二王子」に」

「まあ、そうだな。年齢的に下のハルシオン様が「第一王子」というのも変な話だし、元々ハルシオン様はわざわざ数字で表されずに「王子」と呼ばれていたもんな」

「そのせいでクリスハルト様の方が次期国王に近いと言われるようになっているんだよ。この国では長子が跡を継ぐことが多いからな」

「……それも妃殿下がクリスハルト様を嫌う理由となっているのか」


「っ!?」


 二人の会話にクリスハルトは驚く。

 声は出さなかったが、動くこともできない。

 聞きたくない話をずっと聞かなければいけない状況には変わりない。


「まあ、長子が跡を継ぐこと自体は多いというだけで、ハルシオン様が選ばれない理由にはならない。妃殿下の実子であることを理由にすれば、次期国王にすること自体はさほど難しい事じゃないだろう」

「なら、何の問題もないんじゃ……」

「いや、そうでもないんだよ。クリスハルト様は自分が優秀であることを証明してしまったんだから」

「あっ!?」


 相方の言葉に衛兵は驚く。

 ここでクリスハルトもようやく気付いた。

 平常心であれば、もっと早く気づいていただろう。

 しかし、自身の生い立ちなど衝撃的な事実が彼の思考を阻害してしまっていたのだ。


「優秀であることを理由にクリスハルト様を次期国王に、という声が出るわけか」

「そういうことだな」

「だったら、ハルシオン様も同じように優秀であることを証明すればいいんじゃないのか?」

「できると思うか? ハルシオン様は素直で可愛らしい方ではあるが、決して優秀とは言えないだろう」

「む……」


 相方の言葉に衛兵は何も言えなくなってしまう。

 二人の会話は不敬ととられてもおかしくはないが、決して間違ったことは言っていない。

 まさに、それがハルシオンの世間からの評価だからだ。


「しかも、クリスハルト様は優秀であることを証明するやり方がまずかった」

「証明のやり方?」

「おそらくクリスハルト様は善意でやったとは思うが、そのやり方がハルシオン様よりもクリスハルト様の方が優秀であることを証明することになってしまったわけだ」

「義弟を助けただけなのに、か……それはまた皮肉な話だな」


「……」


 話を聞いたクリスハルトはただただ呆然とするしかできなかった。

 いつの間にか体を動かすことができるようになっており、フラフラとその場から立ち去った。

 そんな彼の様子を二人の衛兵たちは気付くことはなかった。






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