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図書室の管理人は友人に真実を話す

はっきりとは書きませんが、正体はあの人です。(本編では登場していません)


 あれから時は流れ、少年は青年と呼んでもよいぐらいに成長していた。

 いや、もう大人と呼んでも問題はないぐらいに成長しているはずだ。

 しかし、世間の人間は儂のこの考えに対してどう関してはくれないだろう。

 それほどまでにハルトの評判は悪くなっていたのだ。

 といっても、それはハルト自身が作り出した虚像ではあるが……


「いよいよ、明日みたいじゃな」

「ああ、そうだ」


 儂の言葉にハルトは真剣な表情を浮かべる。

 整った容姿ではあるが、遊んでいそうな軽い雰囲気が彼への評価を下げる。

 まあ、それは彼を表面的な姿でしか見ていないからそう見えるだけである。

 少しでも彼のことを詳しく知っているのであれば、その雰囲気とは裏腹に真剣に物事に取り組む彼の思考に気づくだろう。

 それもハルト本人が意図して隠してはいるが……


「本当に良いのか? ハルトは明日、王族の立場を失うのだぞ?」

「もう覚悟はしているよ。そもそも俺には王族なんて立場は荷が重すぎたんだよ」

「……」


 儂の言葉にハルトは笑みを浮かべる。

 しかし、どことなく悲しげな笑顔でもあった。

 彼なりに王族であろうとした時期もあったのだ。

 すぐにそれが意味もない事だということに気づき、諦めざるを得なかったのだが……


「というか、俺が平民になっても生きていけるようにいろんな知識をくれたのはツヴァイ爺さんだろう?」

「別にそんなつもりで教えたわけじゃないわい」


 ハルトの言葉に儂は反論する。

 もちろん、嘘である。

 元々はハルトと楽しく過ごすため、彼が興味を持ちそうな内容を教えていた。

 知識を得ることを楽しみ始めた彼を見て、さらにいろんなことを教えたいと儂はさらにいろいろと手を広げた。

 そして、彼が本気で王族を辞めようと決意したことを伝えたとき、儂は一人でも生きていく術を教えた。

 あくまで知識だけではあるが……


 親しいのであれば、自ら破滅の道を選ぶハルトを止めるべきだと思うだろう。

 しかし、儂にはそれはできなかった。

 親しいからこそ、ハルトの苦しみに気づいたのだ。

 そんな彼が苦しむとわかって、わざわざ引き留めることはできなかった。

 それに、今の儂にそんな権利はないのだ。


「ありがとうな」

「どうした?」


 いきなりハルトが感謝の言葉を述べる。

 意味が分からず、儂は聞き返してしまった。

 その反応にハルトは笑みを浮かべながらも、先ほどとは違って悲しげな雰囲気はなかった。

 真剣な雰囲気を出して、本心からの言葉であることはわかった。


「ツヴァイ爺さんはこの城で唯一、俺が本心で話をできる相手だ。爺さんがいなければ、俺はそうそう精神的に潰れていただろうよ」

「それはないだろうよ。ハルトはしぶといから、上手く過ごしてきたはずだ」

「流石に買い被りだ。本心も話せない状況でずっといるような状況、とてもじゃないが耐えられるとは思えないよ」

「そういうもんかのう」


 ハルトの言葉に儂は嬉しい感情を隠す。

 そこまで感謝されていることは正直嬉しかった。

 もちろん、儂の言ったことは嘘ではない。

 儂以外にもハルトの味方はいるのだから、彼らがハルトを支えてくれていたはずなのだ。

 必ずしも儂が必要だったわけではない。

 しかし、それでもハルトは儂に感謝をしてくれた。

 それだけ儂のことを信頼してくれていたのだ。

 嬉しくないはずがない。


「しかし、寂しくなるのう。これでハルトとは会えなくなるんじゃからな」

「元々の生活に戻るんだろう? だったら、慣れているんじゃないのか?」

「ハルトと過ごす生活に慣れてしまったからのう……前のように過ごすことができるかどうか」

「……」

「冗談じゃよ」


 申し訳なさそうに黙り込むハルトに儂は笑顔で告げた。

 もちろん、嘘である。

 本心で儂は寂しいと思っているのだ。

 だが、それでもハルトの旅立ちを邪魔するわけにはいかなかった。


「悪いとは思っているよ」

「……」


 そんな儂の嘘もハルトは見抜いていた。

 頭が良い上に、察しも良い。

 こういう所は血が争えないかもしれない。

 まあ、ある部分では察しが悪いようだが……いや、それも血は争えないかもしれないな。

 周囲から見れば明らかにわかり切っていることなのに、自分のこと関しては鈍いのだ。


「明日は勝負の日じゃろう。だったら、今日は早めに寝るべきだ」


 儂はハルトに向かって告げた。

 といっても、完全に本心から言っているわけではない。

 明日のために早めに寝るべきだと思っているのは事実である。

 しかし、それは同時に最後の別れを意味しているのだ。

 まだまだ話したいという気持ちがあるのもまた事実だ。

 ハルトの邪魔をしたくないという思いが、後者の気持ちを抑えているわけだ。


「……そうだな」


 儂の思いに気づいたのか、ハルトは立ち上がる。

 そして、そのまま扉の方に向かっていく。

 離れていく後姿を見て、儂は思わず手を伸ばそうとする。

 しかし。そうすることはできず、手をそのまま降ろす。

 今の儂にできることはただただ見守ることだけだ。

 これは儂自身が決めたことであった。

 今の儂にはこの問題に関わる権利などはない。


(クルッ)

「ん?」


 いきなりハルトがこちらを振り向いた。

 その行動に儂は首を傾げる。

 何か忘れ物をしたのだろうか、そう思った儂にハルトは告げた。


「ありがとうな、ツヴァイ爺ちゃん(・・・)

「っ!?」


 ハルトの言葉に儂は驚く。

 今までとは違う呼び方に気づいたのだ。

 思わず私は問いかける。


「いつから気付いておったんじゃ?」

「城に来てから2,3年と言ったところかな? 隠していたみたいだけど、流石にいろいろと情報があったから気づくことはできたよ」

「そういえば、お前さんは天才じゃったのう」

「これでも天才の家系出身だぞ。それに天才に食い下がる万年2位の秀才の血も引いているし」

「……そこまで知っておるのか」


 ハルトの言葉に儂は苦笑する。

 どうやら儂の過去も知っているようだった。

 まあ、儂の正体に気づいたのであれば、辿り着くことはさほど難しい事ではないのかもしれないが……


「頼まれたんだろう?」

「ああ。あれが最初で最後の頼みだったよ」


 ハルトの言葉に儂は頷く。

 そして、当時のことを思い出す。

 10年前、この場所で衝撃の事実を告げられた。

 そして、大の男が目の前で頭を下げる姿を見せられた。

 それは儂がかつて追いかけていた男の姿だった。

 そんなことをされてまで断ることなどできなかった。

 いや、儂には断るという選択肢はなかったのかもしれない。

 今まで追いかけていた男にそこまで頼み込まれたのだから……


「話、聞かせてくれるか?」

「ん? 寝るんじゃないのか?」


 いつの間にかハルトは再び椅子に座っていた。

 儂は思わず聞いてしまった。


「せっかくだから、ライバルから見た感想を聞いておこうと思ってな。俺から見た姿とは違うだろうから、そういう視点でも聞いてみたいし」

「じゃが、明日は大事な日だろう? それなのに良いのか?」

「それなら問題ねえよ。寝不足程度で失敗するような計画じゃねえし、そもそも徹夜しただけで寝不足になるようなタマじゃねえよ」

「……」


 ハルトの言葉に儂は何も言えなかった。

 もちろん、話したい気持ちはあった。

 しかし、同時にハルトの邪魔になってしまうのではないかとも思ってしまったのだ。

 そんな儂にハルトは告げた。


「やっぱりもう少し一緒にいたいと思ったんだよ。せっかくそれだけの時間があるんだったら、寝て過ごすのはもったいないだろう?」

「……そうじゃな」


 ハルトの優しさを感じ、儂は思わず笑みを浮かべた。

 こんな立派に育ったことに儂は誇りに思った。

 その優しさに報いるため、儂は話すことを決めた。

 これが最後の別れであることは分かっていたので、細かい事まで全部──時間の許す限り多くのことを伝えた。

 





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