図書室の管理人は少年と友人になる
裏話です。
本編の裏側で何が起こっていたのか、と言った話ですかね?
「おや、珍しい」
私は思わず呟いてしまった。
なぜなら、珍しい客人が現れたからである。
私がいるのは図書室──世界中の様々な文献が集まった広い部屋である。
しかし、最近は本を読む者も減ってきたせいか、年々この図書室を訪れる者は減ってきていた。
ここ数年では私以外にこの図書室に訪れた者は片手で数えられるぐらいである。
そんな場所に珍しく客人が来たのだ。
しかも、それが明らかに幼い子供だったとしたら、私が驚くのも当然だろう。
その少年は膝を抱え、泣いていた。
「泣いているのかい?」
「……誰?」
私が声をかけると、少年はこちらに振り向いた。
整った顔立ちに利発そうな雰囲気が特徴的であった。
少し警戒心を抱いているのも、頭がいい証拠であろう。
いきなり見知らぬ人に声を掛けられ、すぐに逃げられるように体勢を整えることのできる子供はそういないだろう。
だが、流石に子供相手に警戒させるようなことはするつもりはなかったので、私は優しく問いかける。
「安心しなさい。私はこの部屋の主だよ」
「え? もしかして、勝手に入っちゃダメな場所でした?」
私の言葉に少年が慌てる。
どうやら私の言葉選びがまずかったようだ。
どうやらこの部屋を資質だと勘違いしたようだ。
まあ、ほとんど利用者も来ない、私が一人で使っている部屋なので実質私室である気もするが……
「いや、公共の場所だよ。誰でも使うことができる」
「でも、部屋の主って……」
「管理人のようなものだよ。この部屋を整理したりして管理しているから、部屋の主のようなものさ」
「……なるほど」
私の言葉に少年は少し考え、納得する。
しかし、この会話をしておいて良かった。
少年の警戒心が少し解かれたようだ。
「とりあえず、君の話を聞こうか。こんなところで泣いていたのには何か理由があるのだろう? お茶やお菓子もあるよ」
「え、でも……」
少年は少し戸惑うような表情を見せる。
まだ私に対して警戒しているのだろうか?
いや、どうやらそうではないようだ。
少年の視線は周囲の本に向いていた。
そこで私は気付いた。
「別にこの部屋は飲食禁止ではないさ。流石に本を大事に扱わないような真似は禁止だけどね」
「そうなんですね」
私の言葉に少年は安心したように息を吐く。
どうやら当たりだったようだ。
おそらくこの少年は幼いながらに本をよく読んでいたのだろう。
だからこそ、本を粗末に扱うような行動に対して忌避感があったようだ。
「さて、さっそく話を聞こうか」
紅茶とお菓子の用意をして、私達は向かい合って座った。
そして、私は紅茶を一口飲み、少年に問いかけた。
少年は少し黙った後、口を開いた。
「……僕は「いらない子」なんです」
「おや、穏やかな話じゃないな」
いきなりの言葉に私は驚く。
とても幼い子供から出るような言葉ではなかったからである。
まあ、どの年代の人間が言っても良い言葉ではないが……
「実は僕、最近引き取られたばかりなんです」
「引き取られた?」
「はい。元々は母方の実家で過ごしていたんですけど、母や産まれたときに亡くなっていて、親代わりの祖父も亡くなりました。そのあと、叔父の家に引き取られたんですが、そこで虐待を受けていました」
「それは酷いな」
少年の言葉に私は怒りを露わにする。
子供は宝である。
将来この国を支えていく人材であるのだから、大切に育てていかないといけない。
虐待をするなんてとんでもないことである。
「といっても、一月ほどで虐待から逃れることができました。偶然、僕の父親のことを知っている人と出会ったんです。そして、父親と再会──いや、初めて会ったのだから、再会はおかしいかな?」
「父親と会ったことはなかったのかな?」
少年の言葉に私は純粋な疑問を感じる。
もちろん、子供が親と直接会わない可能性がないこともない。
一番可能性が高いのは子供が生まれる前、生まれて間もないころに亡くなった可能性であろう。
しかし、少年の言葉からそれは違うようだ。
「父と母は不倫関係だったようです。母は自身が妊娠したことを知り、父に迷惑をかけないように実家に戻ったようです。そのせいで父は僕の存在を知らなかったみたいです」
「ふむ……あり得ない話ではないか」
私は納得する。
たしかに彼の言葉通りであるならば、この年になって初めて父親に会うという状況もおかしくはない。
だが、ここで疑問が思い浮かぶ。
「だが、それだけで「いらない子」というのは飛躍しすぎではないだろうか?」
少年が最初に言った言葉である。
たしかに不義の子というのは家庭に不和をもたらす可能性が高いだろう。
しかし、だからといって「いらない子」と子供本人がいう状況は間違っている。
少なくとも、この少年を必要としてくれる者もいるはずなのだ。
だが、そんな私の言葉に少年は首を横に振る。
「飛躍じゃないです。少なくとも、父の奥さんは僕のことを良く思っていないみたいです」
「……まあ、先ほどの話からは恨まれて当然の関係性ではあるか。だが、それはあくまでも大人たちの問題であって、君自身が「いらない子」だとはならないと思うよ?」
「いえ、他にも事情があります」
「事情?」
私は首を傾げる。
先ほどの話以外の事情があるのだろうか?
疑問に思う私に少年は説明をしてくれる。
「僕には一つ下の異母弟がいるらしいです」
「……跡目争いかい?」
「まだそこまでいってませんが、いずれはそうなると思います。当然、奥さんとしては実の子供を跡継ぎにしたいはずです」
「まあ、母親としてはそう思うのは当然だろうな」
私は納得する。
実の子供ほど親から見れば可愛らしいと思うのは当然だ。
実の子供に後を継いで欲しいと思うのは当たり前である。
「つまり、彼女にとって僕は邪魔な存在──「いらない子」です」
「ふむ……」
少年の言葉に私は少し考え込む。
そうじゃないと否定することは簡単であるが、だからといって少年が納得してくれるわけではない。
だが、今の私では彼を納得させる言葉をかけることはできない。
ならば、他にできることは……
「なら、君は私にとって「必要な子」になってくれないかい?」
「え?」
私の言葉に少年は驚く。
いきなり突飛なことを言われたのだからそれも当然だろう。
だが、私は何の考えもなく、そんなことを言ったわけではない。
「言っただろう? 私はこの部屋の主だ。だが、ほとんど人も寄り付かない場所で一人キリ──孤独を感じているんだよ」
「……それはつらいですね」
私の言葉に少年は共感したように呟く。
実際はそこまで辛くはないが、それはおいておくことにしよう。
今はこの少年のケアの方が大事だ。
「というわけで、私の話し相手になってくれないか? そしたら、君には私の知識を授けよう」
「それだけでいいの? 別に良いけど」
私の提案に少年は肩透かしを食らったような表情をする。
だが、断る理由もなかったのだろう、受け入れてくれた。
話友達になったということで、私は思い出したように告げた。
「私の名前はツヴァイだ。ツヴァイ爺さんとでも呼んでくれたまえ」
「僕はクリスハルト。クリス──はあれだから、ハルトとでも呼んで」
お互いの自己紹介はあっさりと済んだ。
こうして私は年の離れた友人ができた。
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