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第一王子は公爵令嬢を断罪する

連載版「たがため」を投稿開始します。

どのペースで投稿できるかはわかりませんが、できるかぎり早めに続きを書けるようにします。

一応、ラストまでのストーリー構成はできています。

面白いと思えば、ブックマークや評価をしていただけると幸いです。





「レベッカ=ムーンライト公爵令嬢。この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する」


「「「「「っ!?」」」」」


 突然の宣言に会場の空気は一瞬で凍り付いた。

 会場中の視線がある一点へ注がれる。

 そこには一組の男女がいた。

 先ほどの宣言をしたのは男の方で名前はクリスハルト=サンライズ──サンライズ王国の第一王子である。

 整ったルックスと王族の血が流れていることを証明する金髪が特徴である。

 どことなく遊び人のような軽い雰囲気があるために女性の扱いが得意そうに見えるが、決して一概に女性から好かれる感じではない。


「殿下、どういうことでしょうか?」


 クリスハルト第一王子の向かいにいた女性──レベッカ=ムーンライト公爵令嬢が質問をする。

 彼女はサンライズ王国で最も歴史があり、国王からも信頼が厚いムーンライト公爵家の令嬢であった。

 彼女自身も容姿端麗・文武両道、高い身分であることを驕らずに隔てなく周囲と交流をしていることから、彼女のことを悪く言う人間はほとんどいなかった。

 しいて言うなら敵対している派閥の人間は悪く言っているが、そんな彼らもレベッカのことは高く評価しているぐらいだ。


 そんな彼女は内心ではかなり驚いていた。

 幼いころから公爵令嬢らしく落ち着いて行動するように教育されていたため、その驚きを表面に出していないだけだ。

 そんな心の内をバレないようにレベッカは質問をした。


「ムーンライト公爵令嬢ともあろうお前が理解できないのか? なら、もう一度……」

「いえ、その必要はありません。殿下のおっしゃったことは一言一句聞き取れていますので」

「む、そうか?」

「はい。私が気になっているのは、「どうしてそんなことを言うのか」ということです」


 心を落ち着かせながら、レベッカは質問をする。

 これは彼女自身が知りたいと思っていると同時に、ざわついている周囲に説明が必要だと思ったためである。

 二人の婚約は王家と公爵家の間で決められたものであり、いくら第一王子とはいえクリスハルトの一存で決められるようなことではないのだ。

 それなのに、彼はこんな大衆の面前──学院の卒業パーティーという卒業生にとってのめでたい門出でこんなことをしでかしたのだ。

 しっかりと説明をしてもらわないといけないのだ。

 そんな彼女の質問にクリスハルトは偉そうに告げる。


「お前が国母にふさわしくない。だからこそ、この場で婚約破棄をしたのだ」

「……なぜそのようなことを?」


「「「「「っ!?」」」」」


 クリスハルトの言葉を聞いたレベッカの声が一気に低くなる。

 彼女のことをよく知らない人間でも一瞬で理解できた──彼女が非常に怒っている、と。

 この状況で起こらない人間の方が珍しいかもしれないが……

 そんな彼女の様子に気づいていないのか、クリスハルトは言葉を続ける。


「しらばっくれても意味はない。俺は知っているんだからな」

「何をでしょうか? 私は殿下に婚約破棄をされるようなことをしたつもりはありませんが……」


 クリスハルトの言葉にレベッカは首を傾げる。

 彼女からすれば、本当に身に覚えのない事だからである。

 普段から品行方正に過ごしている彼女だからこそ、国母にふさわしいと言われることはあっても、その逆はありえないと周囲も認識していた。

 そんな彼女の様子にクリスハルトはだんだんイラつき始める。


「嘘をつくな。お前が俺に近づく一人の女生徒を虐めたことは知っているんだぞ」

「……本当に何のことかわかりませんわね」


 レベッカは少し考えてから、クリスハルトの言葉を否定した。

 彼が言いたいことは理解することができた。

 しかし、彼女の立場からすれば、本当に身に覚えのない事だったのだ。

 なぜなら、レベッカはクリスハルトの言うようないじめなど行っていないのだから……

 明らかに事実を捻じ曲げられてしまっているのだ──悪意によって。


「なら、その証拠を見せてやる。セシリア、来てくれ」

「は、はい」


 クリスハルトの声におどおどした返事があった。

 そして、彼の斜め後ろの人垣が割れ、一人の女生徒が現れた。

 背中のあたりまで伸びた栗色の髪と可愛らしい雰囲気が特徴的な女子生徒である。

 彼女はそのおどおどとした小動物のような雰囲気が「守ってあげたい」という気持ちを掻き立て、一部の男子生徒から密かに人気があった。

 そして、そのせいで他の女生徒から反感を買っていたりする。

 レベッカからすれば、それはただの嫉妬だと思うのだが……


 彼女の名前はセシリア=レイニー──レイニー男爵家の令嬢である。

 といっても、最初から男爵令嬢だったわけではない。

 彼女の父親が現男爵の兄であり、平民の女性と駆け落ちしてしまったらしい。

 その二人の間に生まれたのがセシリアであった。

 彼女が13歳の時に両親が流行り病で亡くなってしまい、その時にレイニー男爵に養女として引き取られることになった。

 レイニー男爵は引き取ったセシリアに貴族令嬢に必要な教育を施し、この学院に入学させた。

 男爵と言えども、貴族に生まれた以上は学院に通うことが当たり前だからである。


「お前がセシリアを虐めたことはわかっているんだ」

「……身に覚えはありません」


 クリスハルトの言葉にレベッカは首を横に振る。

 本気で身に覚えがないのだ。

 もちろん、レベッカもセシリアのことを知っていた。

 貴族が学院に通うことは当たり前のことではあるが、彼女の場合はそれ以外の部分が普通とは違うのだ。

 元々平民だったのに、男爵がわざわざ引き取って学院に通わせたのだ。

 まったくない話ではないが、珍しい話であることには変わりない。

 下手をすれば、その家の醜聞になる話でもあったぐらいだ。


「まだ白を切るつもりか?」

「いえ、本当に身に覚えがありませんので」

「なら、この場で言わせてもらおうか。お前のやってきた悪行を、な」

「……」


 クリスハルトの言葉にレベッカは黙り込む。

 反論を諦めたわけではない。

 レベッカにとって身に覚えのないいじめについて、クリスハルトがどのような事を言おうとしているのか気になったのだ。

 そんなレベッカの思惑に気づかず、クリスハルトは話を始める。


「まず、お前はセシリアに対して暴言を吐いたそうだな。しかも、自分だけではなく、他の生徒たちも使って」

「……暴言ですか?」


 レベッカは首を傾げる。

 全く身に覚えのない内容だったからである。

 公爵令嬢という貴族令嬢の中で模範となるべき彼女は幼いころからの教育により、どのような状況でも暴言を吐くことはない。

 たとえ相手を非難するときでさえも、丁寧な口調で諭すように伝えるぐらいである。

 彼女の侯爵令嬢という立場のせいで恐怖を感じ、それを暴言ととられた可能性はあるかもしれない。

 だが、それは彼女が暴言を吐いたということにはならないはずだ。

 彼女が暴言など吐くはずがない──彼女の周囲にいる人間もそのように考えていた。


「セシリアが元平民だからという理由で何度も「貴族にふさわしくない」「この学院にふさわしくない」と言ったそうだな? 平民であったことを馬鹿にするようなことも言ったらしいな」

「それは……」

「言い訳は結構だ。その事実はわかっているのだから」

「……」


 レベッカは反論しようとするが、クリスハルトがそれを遮ってしまう。

 もちろん、これは誤解だった。

 クリスハルトの言っていることについて、レベッカも身に覚えがあった。

 といっても、あくまでもそう取ることができる内容を口にしたことがあるだけで、クリスハルトの告げた言葉は明らかに悪意を持って捻じ曲げられていたのだ。

 レベッカが伝えようとしていたこととは似て非なるものであった。


「貴族にふさわしくない」「学院にふさわしくない」──これらの言葉はおそらくセシリアが入学した頃の話であろう。

 当時の彼女は男爵家に引き取られて2年しか経っておらず、貴族としてのマナーなどがなっていなかったのだ。

彼女は努力家であったことから2年にしてはしっかりとしたマナーだったとは思うが、2年程度でマスターできるほど甘くないのも事実である。

 そのことをレベッカは指摘したのだ。

 「貴族としてこの学院に通い、立派な令嬢として認められるためにしっかりとした礼儀作法を身に付けるべき」と言ったことは彼女も覚えていた。

 クリスハルトが言っているのはそのことについてだろう。

 これはセシリアが事実を捻じ曲げ、クリスハルトに伝えたのだろうか?


「セシリアの私物を壊したそうだな?」

「っ!? 私はそのようなことをしておりません」

「ふんっ……どうせ取り巻きの人間に命令して、自分は手を下していないと言いたいのだろう? 命令をした時点でお前も同罪──いや、主犯として最も重い罪のはずだ」

「っ!?」


 クリスハルトの言葉にレベッカは言葉を詰まらせる。

 この件について、レベッカは全く関与していない。

 セシリアが他の女子生徒から疎まれ、いじめを受けていたことは知っていた。

 一部の女子生徒が彼女の私物を壊したということも当然知っていた。

 レベッカはその女子生徒たちと話したことはあった。

 といっても、それは彼女たちがセシリアの私物を壊したことが貴族令嬢としてふさわしくない行為だと告げただけなのだ。

 レベッカが命令をしたなどと言うのは完全に濡れ衣であった。

 もしかすると、レベッカが女子生徒たちと話していたことで「命令をした」などという誤解が広まったのかもしれない。

 被害者であるセシリアが見たのであれば、そのような勘違いをしている可能性もあるが……


「……」


 彼女は申し訳なさそうにうつむいていた。

 その反応から彼女がクリスハルトにこのような誤解をさせたわけではないことを察することができた。

 彼女がそのようなことをしたのであれば、人を陥れたことへの優越感が現れていてもおかしくはない。

 だが、彼女にその様子は一切なかった。

 そもそも、彼女はそのようなことをする人間ではないのだ。


「私と婚約破棄をして、どうするつもりですか? 第二王子のハルシオン様もいらっしゃいますから、セシリア様と結婚をするとしたら王位継承権を破棄することになりますよ」


 レベッカは違う方向から攻めることにした。

 今のクリスハルトは「レベッカがセシリアを虐めた」という固定観念にとらわれてしまっているせいか、反論が意味をなさない。

 ならば、それ以外から切り崩そうとしたのだ。


 クリスハルトは第一王子であり、もっとも王太子──ひいては次期国王に最も近い存在である。

 しかし、その立場は決して盤石なものではない。

 クリスハルトの一つ下の弟である第二王子のハルシオンが優秀であることから、彼が王太子になるべきだと考えるものも多くいるのだ。

 長子が継ぐべきだと考える者もいるが、優秀であるハルシオンが継ぐべきだと考える者の方が多いのが現状である。

 といっても、この件はほかにも様々な事情が絡んでいるのだが……


「そんなことで俺の決意が揺らぐとでも? 損な脅し程度で俺が婚約破棄を取り消すとでも思ったのか?」

「違いますっ!」

「俺は愛のためならこの立場など喜んで捨てよう。俺がこの立場をすれば、喜ぶ奴もいるだろうしな」

「そ、それは……」


 クリスハルトの言葉にレベッカは反論しようとする。

 たしかに彼の言う通り、彼が王位継承権を捨てることで喜ぶ人間がいるのは事実である。

 だが、レベッカは彼が王位を捨てることを良い事だとは決して思っていなかった。

 それを否定しようとしたが、そんな彼女の思いは伝えることができなかった。


「すみません、通してくださいっ!」


 人垣の向こうから申し訳なさそうな声が聞こえる。

 それに気づいた人たちが道をあけた。

 そこから現れたのは……






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