野蛮隊
「ザップさーん、ザップさーん」
久しぶりに1人で王都のギルドに来ると、右手最奥の王都最強パーティー席から立ち上がって手を振ってる者がいる。さすが吟遊詩人。この雑踏の中でもよく声が通る。その横の浅黒い大男が僕に軽く会釈する。王都最強パーティー「地獄の愚者」の吟遊詩人のパムと死霊術士のレリーフだ。あいつら今日は2人だけなのか? リーダーの戦士デュパンと女性聖騎士のジニーが居ない。とりあえず、暇なんで行ってみるか。
「まあまあ、ザップさん座って下さい」
少し抵抗あるが、パムに促されてテーブルにつく。
「後の2人はどうした?」
この2人は問題児だ。もしかして捨てられたのか?
「今日は休みなんですけど、オイラたち別にすることなくてゆっくりしてるんですよ。せっかくなんで、『野蛮隊』として何か依頼受けてみます?」
ちなみに『野蛮隊』とは僕たち3人の臨時パーティー名だ。パムが最低極まりない名前をつけたのだが、今はコレで落ち着いている。2度とコイツらとは一緒に行動しまいと思ったもんだが、今となっては子供のいたずらのようなものだ。気にするまでもない。
「私もよかったら、ザップさんと一緒に戦いたい」
無口なレリーフが口を開く。まあ、そうだな暇だしなんか受けてみるか。
「まあ、いいか。パム、なんかよさげなの見繕ってくれ」
「がってん承知です!」
パムは嬉しそうに依頼の掲示板に駆けていく。まあ、さすがに王都のギルドの依頼でしょうもないのは無いだろう。
僕はトマトジュースを頼んでゆっくり待つ事にする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なぜこうなった……
僕たち3人は城門のそばのスラム街に近い広場で全裸で巨大スライムと相撲? している。正直あとの2人に任せて逃げだしたい。めっちゃギャラリー集まってる。これって僕らわいせつ罪で捕まるのでは……
「これ、やたら報酬いいですね。街中でスライム討伐で大金貨2枚だそうですよ」
怪しい、明らかに怪しい。ま、けど、なんとかなるだろと思って引き受けてしまった。
内容は簡単で、スラムに居着いたスライムを狩るという簡単なお仕事だった。大人しいスライムでしかもスラム街で人があまり居ない所だけど、一応町中なので依頼が出てると職員さんは言っていた。けど、何組もの冒険者が失敗してると言う。
行ってみたら簡単にスライムは見つかった。けど、デカいな。
「げっ、オイラのダガーが……」
見つけた瞬間、パムがスライムに手を突っ込んでいる。相変わらず戦闘狂だな。けど、ダガー、刺した瞬間に溶けたのか? パムの手はなんともないのか?
「ザップさん。これって伝説のアイツですよ!」
「伝説のアイツ?」
「装備だけ溶かすスライムですよ! なんで女の子が居ない時に遭遇したんだーっ!」
まじか? 僕はハンマーをだしてスライムをツンツンしてみる。まじか? 僕のハンマーが溶けてる。まあ、修復能力があるんだけど、全部溶けたらなくなっちまうだろう。
「そんな馬鹿な話があるか」
レリーフはそう言うと駆け出してスライムに体当たりする。そしてそのままスライムに飲み込まれてしまった。
「レ、レリーフ!」
僕は咄嗟に駆け出してレリーフに手を伸ばす。僕はレリーフの腕を掴み引っ張り出そうとするが、逆にレリーフに引きずり込まれてしまう。そして、無我夢中に足搔いて抜け出したら、広場に全裸だった……
収納からミノタウロスの腰巻きを出して3人仲良く装備する。ああ、間違いなく僕たちは『野蛮隊』だ……
けど、どうやって倒すか? あんまり無差別な攻撃は街中だし、激しすぎる攻撃はスライム飛び散らせそうだし。
「そもそもなんで、こんな奴がここにいるんだ?」
「ザップさん、そりゃ、決まってるじゃないですか。多分プレイに使ってたらでっかくなったんで捨てたんじゃないですか?」
とりあえず、パムの言った事は聞かなかった事にしよう。
取れる手段と言えば……
「むしれ。むしり尽くすぞ」
「了解!」
「わかった!」
そして、僕たち3人は品が無いギャラリーの声援受けながら巨大スライムをむしり始めた。
「おお、なかなかいい鍛錬だな。全身の筋肉に負荷が」
レリーフがスライムの中を駆け抜ける。
「遊ぶな! もう腰巻きやらんぞ! おい、パム、何してる?」
パムはスライムをむしってるように見えない。スライム屑が出てないからだ。
「え、ザップさんもこのサイコーの液体収納に入れてないんですか?」
「入れるか! 性犯罪者になってたまるか!」
それにしても、スラム近いだけあって声援がえげつない。特にはすっぱなねーちゃんや、チンピラ風のにいちゃんが僕たちのバトルを楽しんでやがる。マジで何度むしったスライムを投げつけてやろうと思った事か……
何度か腰巻きをやられて歓声が上がったりしたが、なんとかスライムをむしりつくしてやった。
そしてまた一歩『野蛮隊』はその名を知らしめた……
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