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番外編SS 荷物持ち戦争を止める


「ちぇすとーっ!」


 騎士は長剣を大上段に振り上げると、僕に振り下ろす。良い剣筋だ。これが帝国の騎士の一団をまとめる力をもった者の一撃か。


「まだまだだな」


 刹那の時間で振り下ろされた剣を収納に強奪し、自分の手に出す。


 僕は奪った剣を騎士の首下に突き付ける。


「オオオオオッ」


 僕達を囲んでる他の騎士達がどよめく。


「なに? 何が起こった?」


 騎士の顔が驚きに染まる。


 ドゴッ!


 僕は騎士の腹に一撃をくれる。本気で殴ると地獄絵図になるので加減する。10メートルほどぶっ飛び、また立ち上がる。

 

 茶色の髪に意思の強そうな鳶色の目、身長は180センチはあるだろうか。無精ひげがすこしもったいないが、美丈夫という言葉が似合う青年だ。


「まだやるのか?」


 僕は彼の剣を差し出す。


「当たり前だ!」


 騎士は剣を取るとまた構えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

「お前たち、俺はもう駄目だあとは頼んだ。俺達の愛する者を守るため、この魔人を倒してくれ……」


 騎士団長はそう言い残し大地に崩れ落ちた。倒れても倒れても何度でも立ち上がり、剣を握り僕に立ち向かって来た。何が彼をそんなに駆り立てていたのだろう? けど、これじゃ僕がとても悪者みたいだ。


「オオオオオオオッ!」

 

 僕達を囲んでいた騎士団が雄叫びを上げる。


「皆の者! 団長の敵討ちだ!」


 騎士達は武器を手に僕に襲いかかってくる。団長死んでないって。しょうがない。殺さないように戦うか。


「そいやっ!」


 気合を上げて襲いかかってきた騎士の剣を収納に入れて死な無い程度に蹴りつける。一撃で騎士は動かなくなる。それでも誰ひとり怯むことなく、僕に向かってなだれ込んできた。


 武器を奪う殴るを延々と繰り返し気が付いたら動く者はいなくなってた。


 町に帝国の騎士団が近づいてるという話を聞いて見に来ただけなのに、いつの間にか団長と一騎打ちする事になり、あまつさえ壊滅させてしまった。


 どうしようか?


 武器も奪ってやったので大人しく帝国に帰ると思うけど、なんかこいつらは悪い奴じゃないような気がする。団長にエリクサーをかけて起こす。


「お前たちは何しにきたんだ?」


「食べ物をもらいに来た」


「話だけでも聞かせてくれないか?」


「ああ、いいだろう。我々にはもう打つ手もないことだしな」


 話を聞くと、今年は帝国全土が作物の不作で、彼らの領土は食べ物が足りなくなりそうになり、蓄えで隣国から買い付けようとしたら、商人たちが結託して価格を10倍に引き上げたそうだ。

 このままだと多数の餓死者を出すことになるので、それよりはという事で武力行使に踏み切ったとの事だ。


 政治の事はあまり解らないが、なんとも言えないな。


「団長、普通の金額で食料が買えたら問題ないんだな?」


「ああ、そうだが?」


 僕は帝国騎士団長を連れて町に向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それで、貴様らの望みは何だ……」


 僕が逗留してる町の領主と思われる人物は大地に横たわっている。カイゼル髭のナイスミドルだ。彼も武人らしく、こうなるまで若干の指導が必要だった。


 ああ、またやってしまった。辺りには王国軍の兵士たちが武器を失って伸びている。武器は僕の収納の中だ。町の前には王国軍が陣取っていて、帝国騎士を連れた僕の話を聞いてくれるわけもなく、なし崩し的に戦いになってしまった。


「二人で話し合え」


 僕は帝国騎士団長に話を促す。


 帝国騎士団長と町の領主は地べたに座り話し始める。領主がくたびれて動けないからだ。未だかつてこんなにフランクな政治的な会議を聞いた事がない。


 しばらくして、二人は固く握手した。交渉成立したのだろう。


「よかったな、平和に解決して」


「さっき領主殿とも話したんだが、ザップ殿と戦うより、帝国軍と王国軍が交戦した方が被害が少なかったんじゃないかと……」


 騎士団長が僕から目を逸らして言う。


「そうだな、全滅した騎士たちの治療と武器の再購入。多分帝国と交戦してたら十数人の怪我人だけで済んだはずだよな……」


 領主も僕から目を逸らして呟く。


 え、戦争ってそんなものなのか?


「おい、まてよ、俺からは一切攻撃を仕掛けてないぞ」


 僕は抗議する。正当防衛だ。しかも僕は丸腰で騎士はみんな武装してたし、決して悪く無いはずだ。


「まあ、何はともあれありがとう」


 騎士団長と僕は握手した。


「とりあえず、町を守ってくれてありがとう」


 領主も僕と握手した。


 二人とも、うじうじ言うので、やむなく収納に奪った武器は返してやった。そのあとの二人の手のひら返しは華麗だった。卑屈に僕にペコペコする生き物に変わった。


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