心臓を捧げよ
「我が名は猿人間魔王ザップ・グッドフェロー。貴様に命ずる。我に心臓を捧げよ」
僕は粛々と低い声を紡ぐ。
「承知。ザップ様、こちらが心臓になります」
忍者ピオンが振り返り、僕とマイのキャベツが乗った器に3串の心臓が捧げられる。僕は鷹揚と頷く。
「大義であった。褒美を取らせよう。汝にエールを授けよう」
僕はポケットから銀貨1枚を出してカウンターに置く。
「ははあ、有難き幸せ」
ピオンはカウンターの裏にある呼び鈴を叩く。
チン、チーン。
高い心地よい音が響く。これは1回叩くごとに店内から1杯エールを中のウェイトレスが持ってくる。
「お待たせ。生2杯でーす」
客商売になれ、昔からは考えられないような素晴らしい笑顔でメイド服の忍者パイがジョッキを2つ持ってくる。早い、さすが忍者だ。
「よし、乾杯だ!」
「「かんぱーい」」
僕とピオンはジョッキを突き合わせ、中の黄金色の液体を口にする。僕は1口だけ、ピオンは喉を鳴らし一気にジョッキを空にする。なんか僕の周りにいる女の子ってみんなお酒に強いんだよね。たまには『酔っ払っちゃった』とか言って、頬を染めてもらいたいものだ。
「ザップー、もう2杯目だから、今日はお酒はそれまでにしときましょ」
マイはそう言うと心臓を口にする。
「はい、マイ様かしこまりました」
「ザップ、魔王ごっこはもう止めるのか? けど、ザップより上と言う事は、マイは大魔王。『大魔王マイ』、なんか言いにくいな」
ピオンが饒舌だ。もしかしたら少し酔ってるのか? 心なしか頬が赤い。なんか可愛らしい。ピオンをまじまじと見る。真っ黒な髪に前髪パッツンのショートボブ。少しだけ目の端が上がっていて、猫ちゃんみたいだ。小っこくて痩せているけど、今日は作務衣という前で閉じる服を来ているその合わさった隙間からは魅力的な谷間が見える。マイよりデカい。前に屈むとチラチラ下着が見えるのが煽情的だ。けど、視界に入れないようにしないとマイが拗ねる。
「ザップ、早くハツを食べろ。冷めるぞ」
ピオンに促されて僕はまずは豚のハツを手にする。
「豚の心臓を食ってやる!」
僕は串を掲げてから口に入れる。なんかテンションが上がる。もしかして酔っ払ってるのか?
僕たちは今、うちの隣のレストランの入り口の露店で串焼きを楽しんでいる。『ホルモンの日』って書いてあるのぼりについ引き寄せられてしまった。因みに他の仲間はレストラン店内で晩御飯を食べている。
カウンターの前に椅子があって、カウンターの後ろの炭コンロで焼いた串を焼けたてで食べる事が出来る。席は5つだけで、さっきまで隣には3人のオッサンがいた。それで丁度帰ったので、僕とピオンでロールプレイを楽しんでいたところだ。
僕たちがさっき頼んだのは『家畜の心臓3点セット』。名前はアレだが、要は、牛、豚、鶏の心臓、俗にいう『ハツ』だ。個々に食した事はあるが、食べ比べ的なものは初めてだ。
まずは豚。少しコリコリしていて、旨味が口に広がる。全く臭みがなく癖もなく食べやすい。次は牛だ。豚より柔らかく、更にクセがない。なんか心臓って言ったら、血なまぐさそうだけど、それが全くない。そして、次は鶏。これは心臓の形をしてるから初めて食べた時は抵抗があったけど、今は好物のうちの1つだ。それ故最後に回した。コリコリしてるけど、砂肝ほど硬くなく、肉の旨味が口の中に広がる。3つを食べ比べて、共通なのは変なクセがなく食べやすい。どれも美味しいけど、個人的には鶏だな。コリコリ感がたまらない。
「美味しかったわ。どれも新鮮ね。おかわりいいかしら」
マイが笑顔でピオンに話しかける。
「ホルモンの日だからな。ホルモンは鮮度が命」
「ザップ、これほどのはそうないわ。牛と豚のハツは普通だともう少し血臭くて、レバーみたいな味がするのよ。新鮮なのをしっかり血を拭いてるんだと思うわ」
相変わらずマイは食べ物に関して博識だ。では、僕も。
「ピオン、我に再び心臓を捧げよ」
「かしこまりました魔王様」
「ザップ、恥ずかしいから他の人が来たらやめてよ」
「かしこまりました、大魔王マイ様」
そして、僕たちは心ゆくまで、串焼きを楽しんだ。
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