見えない敵
「次は俺の番だな」
僕は、ずいと前に出る。
「頑張って下さい」
「じゃ、次はオイラだね」
マッスル黒エルフのレリーフと、子供族のパムが後ろに下がる。パーティー名を変更するために集まったついでに、僕たちは迷宮探索に来ている。ちなみに新しいパーティー名は『筋肉野蛮隊』だ。レリーフの趣味全開だけど、前よりなんぼかマシだ。けど、リーダーがレリーフのような名前だな。僕もパムもそこそこの筋肉はついているが、レリーフには足元にも及ばない。特にパムは自分の筋肉を人に見せるのを嫌い、夏でさえも長袖だ。マッチョだと女の子に可愛がってもらえないからだそうだ。間違いなくセクハラするときに警戒されないようにだろう。ブレない奴だ。
順番に出て来た魔物を狩るというルールで、さっきレリーフが楽しそうにオーガの集団を相撲で倒した所だ。なんか田舎とかでやってるなんとか男祭りみたいだった。むくつけき男達何かを奪いあったりとかする、誰得イミフな奴だ。正直、オーガがオーガを倒しているようにしか見えなかった。
僕の前に現れたのは銀色のフルプレートメイルに双剣を構えた騎士が1人。もしかして冒険者か?
「おい、人間か?」
こっちに向かって走ってくる。
シュン。
返事は剣のなぎ払い。魔物か人かは解らないが敵確定だ。2本の剣の逆袈裟、唐竹割りをかわして横に入り蹴り飛ばしてやる。フルプレートメイルなんて重りをつけて戦ってるようなものだ。その眠たくなるような攻撃をかわすのは容易い。奴は倒れてもがいている。重くて立ち上がれないのか?
ガラガラッ。
鎧が崩れ落ちる。そして2本の剣が宙に浮かぶ。まるで、誰かが構えているかのように漂っている。なんだこりゃ? パムあたりは博識だから何か知ってるかも知れないけれど先輩の沽券で聞くに聞けない。
チラと見ると、レリーフもパムもこっちをガン見している。僕がどう戦うか期待してるのだろう。変なプレッシャーを感じる。
相手は妖精ミネアみたいに不可視の魔法を使える敵か? それならば相手は全裸だな。うちのドラゴン娘のような敵だな。
宙に浮いた2本の剣がこちらに向かってくる。さっきとは比べものにならないスピードだ。けど、甘い。紙一重で全てかわす。けど、おかしい。明らかに人間の動きでは無い。僕の頭の中で剣を持つ人物をシミュレートしているのだか、そいつは手が伸びたり、腕が変な方向に曲がったりしている。軟体動物、タコやイカが剣を握っているのか?
「そいやっさー!」
気合一閃!収納から愛用のハンマーを出して振るう。まずは無力化。2本の剣を粉砕してやる。折れた剣は遠くに飛んでいく。僕は見えない敵がいると思われる方に向かって構える。
…………………………
何も起こらない。我慢比べか?
…………………………
「ていっ!」
しびれを切らして、僕は横薙ぎにハンマーを振るう。大きな空を切る音がする。
「ザップさん、何してるの? さっき魔物はもう倒したじゃないですか?」
「え?」
「リビングメイルと、ダンシングソード。さっさと次行きましょう」
「いや、パム。ザップさんは素振りをしたいのだ。アレくらいの戦いじゃ体がなまるからだろう」
「それは無い……ダンシングソードって何だ?」
恥を忍んで聞くと、魔法生物で浮いて攻撃してくる剣だそうだ。同じ名前の魔法もあって使ってくる魔法使いもいるそうだ。
と言う事はさっきの剣が本体だったと言う事か……
解らない事や、疑問に思った事は恥ずかしがらずに聞く。当たり前の事を僕は学んだ。
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