番外編SS 荷物持ち湖で
「うお、おおおおおおっおっ」
僕は焚き火の前で、パンツ一丁で歯の根も合わず震えている。声もまともに出ない。
「ザップー、大丈夫」
マイが僕の顔を覗き込んでいる。近い近い。けど言葉が出ない。マイは薄着だ。この寒い中チューブトップにショートパンツという気の触れたような格好をしている。見てるだけで寒くなる。
「ご主人様、そりゃこんな寒い中で湖に飛び込んでたらそうなりますよ。多分私でしたら春になるまで浮いてきませんね」
着ぶくれだるまのドラゴンの化身アンが火に近づいてくる。よく見ると角まで靴下みたいなのでくるまれている。
僕がなぜこんな季節に湖に飛び込んだかというと、ギルドに高額な依頼で、湖に落とした夫の形見の腕輪を探して欲しいというものがあったからだ。
「依頼人の奥さん美人さんだったけど、これ諦めた方がいいんじゃない?」
いや、確かに未亡人の女性は綺麗だったけど、決してそれが理由ではない。報酬がよかったからだ、報酬が。
「ズズズズズーッ」
「あっ、ずるいですご主人様。私も欲しいです」
「ザップ、最近お金よく使うと思ったら収納に担々麺入れてたのね。怒らないから言ってみて、何杯はいってるの?」
「100杯……」
「もしかして、ザップ、ばか? けどそれ美味しいから1杯ちょうだい」
美味しいは正義だ。しかも寒い中の熱々の担々麺は最高だ。僕の収納の中では食べ物は劣化しない。出来たてのままだ。しばらく僕達は熱々の担々麺を楽しんだ。
「よし、いくか!」
僕は再び湖に入ろうとする。
「ザップ、ザップの収納ってどれくらい入るの? もしかして湖の水全部入ったりして」
マイが猫耳をピクピクしながら、面白い事を言う。
「いや、さすがに無理だろ。けど、やってみよ」
僕は自分の限界を試してみることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もう駄目だ。水一滴も入らない」
湖は7割位干上がって、所々その底が見えている。けど、ぬかるむ足場のなか腕輪を探すが見つからない。金色で目立つものらしいから、すぐ見つかるはずだけど。
「もっと奥なのか」
結局また水には入らないといけないのか……
「ご主人様、見つかったら担々麺10杯でお願いします」
アンはそういうと、どんどん服を脱ぎはじめた。
僕の代わりに湖に入ってくれるのか?
彼女は僕に背を向けて全部の服を脱ぎ終わるとあさっての方に走って行った。何も考えてなかったのでついついガン見してしまった。とっても綺麗だった。相変わらず裸族全開だな、なんかマイがギャーギャー言っている。
ゴゴゴゴゴッ!
地面が揺れる。見ると巨大なドラゴンが降臨してた。
ドラゴンはのっしのっしと地面を揺らしながら湖に向かう。
もしかして、こいつは本物のおばかなのか?
ドラゴンは湖に首を突っ込むと、おもむろに水を吸い込みはじめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あったー! あったわよ!」
マイが金色の腕輪を掲げている。
僕の横にはドラゴン? が転がっている。お腹が丸々としていて、なんというか瓜とか洋ナシみたいな体型になっている。すさまじかった、どういう体をしているのだろうか? 湖の水はあと1割位しかなく、湖底だったところには魚がぴちぴち跳ねている。
「グボボボボボッ」
限界だったのか、横たわったドラゴンアンの口から勢いよく水が溢れ出る。
「マイ! 逃げろ!」
「えっ!」
僕達は湖だった所から出ようとするが間に合わず、濁流に呑み込まれた……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うお、おおおおおおっおっ」
僕は焚き火の前で、パンツ一丁で歯の根も合わず震えている。声もまともに出ない。
「ザップー、大丈夫」
マイもガチガチ震えながら火にあたっている。僕の収納から出した服に着替えている。普通に厚着だ。
「ご主人様、ごめんなさい」
アンはもう何回言ったか解らない謝辞を口にする。
「大丈夫、気にしてないから。お前の頑張りがなかったら、見つからなかったからな」
マイは金の腕輪をふるふるする。
そして僕達は仲良く担々麺をすすった。ちなみに甘やかしたらアンは30杯以上食べた。