指輪の物語
1つの指輪は世界を統べる。4つの指輪は……
古来から指輪には力があると信じられていた。原始よりの一番身近な装飾品。人を人たらしめる重要な器官、手の指を飾るもの。古来から数多の指輪が人の指を飾ってきた。左手の薬指に嵌めるものは人の縁を支配すらしている。
今回はそんな指輪に関する私の体験談だ。
「大変、大変、大変、なんすよ。ザップ、ザップ兄さーん!」
玄関を勢いよく開けたような音がして、ドタドタと廊下を何者かが走ってくる。やかましい叫び声と共に。
あの声はアンジュ。僕らが仲がいい少女冒険者4人のリーダーだ。
今僕はリビングでごろ寝読書中で、部屋にはマイと導師ジブルがいる。ここしばらく集中して討伐依頼を引き受けていたから今日は冒険者稼業はお休みだ。冒険者稼業は体が資本。だいたい週に2日は休みをとり体を休めている。休息も仕事のうちだ。
バタン。
扉を開けて入って来たのは、果たしてアンジュ。今日は普段着でシャツにスカートという普通の格好をしている。彼女はだいたい鎧を着ているのでこういう格好は新鮮だ。スカートはくんだな。けど、異彩を放つのはほっかむりをして口を隠している。まだ暑いのでなんかあるんだろう。口がどうかしたのか?
「ん、大変ってどうしたんだ?」
なんか強い魔物が出たって訳じゃないよな。それなら武装してるはずだ。
「それがですね、大変なんすよ」
赤毛でショートカットでビビッド。容姿はかなり良い方に入るのに、その三下みたいな言葉使いがもったいない。魅力3割減だ。
「まあ、なんだからとりあえず座れよ」
僕はソファから身を起こし、テーブルを囲む。マイも興味本位で同席する。
「それがっすね。迷宮で魔法の指輪を見つけて嵌めたら呪われちゃったっす」
「おいおい、そうそう落ちてるようなものを簡単に嵌めるなよ」
道で指輪を拾っても嵌めたりしないのに、なんでダンジョンに落ちてるものはすぐ嵌めてしまうんだ?
「ん、簡単にはめる? なになにっビッチな話?」
幼女導師ジブルも参加してくる。はめるに反応すなや。
「迷宮ではめたの? で、誰と?」
ジブルは目玉がランランだ。
「え、誰ってみんなと一緒にいた時っすけど?」
「みんなと一緒の時に? 見られたら燃える派なの?」
「え、そんなの見られてもなんとも無いっすよ。けど、今は少し恥ずかしいっすね」
「え、見られても恥ずかしくないって、あんた見かけによらずメンタル強いのね。じゃここで見せて!」
「いいっすけど、抜けないんすよ」
アンジュは右手をテーブルに置く。その中指には質素な感じの指輪がはまってる。
「え、はめるって、指輪? つまんない。男じゃないのね……あうあうあうあうっ!」
見るとジブルのこめかみをマイがグリグリしている。
「ジブル、ギルティ。変な事ばかり言わないの!」
「ごべんなさい……」
やっとアホ導師が黙った。これで話が進む。
「それって呪いの指輪なんでしょ? アンジュ達って今迷宮都市にいるんでしょ? そこで呪いを解いてもらえばよかったんじゃ?」
「それはそうですけど、面白いんでとりあえずマイ姉様たちに報告に来たっす」
アンジュはほっかむりを取る。その顔を見て僕らは息を飲む。
「うわ、赤毛の人って髭も赤いのね、で、下の……れぶしゅ!」
皆まで言う前にマイがジブルをどついた。メッチャ速かった。
アンジュの口の上には見事な赤いカイゼル髭が生えている。しかも心なしか似合っている。
「リング・オブ・ヒゲ。装着した者に見事な髭を生やす。抜いても次の日に生えてくる。呪いで外せない」
「おお、鑑定か」
「うん、けど、何なのこの指輪? なんの役にたつの?」
僕は考えてみる。なんの役にも立たないな。そういえば、きいた話では遠い国では髭を生やしてないとホモ扱いされる所もあると言う。そこに行く時に役立つかもしれない。けど、こういう時の遠い国って知り合いの知り合いの話と同じくらい信憑性ないけどな。
「せめて、頭の毛が生えるのだったら高い値段で売れそうだがな」
「それよりも、下の……おぶしゅっ!」
また、マイからの高速制裁が……懲りん奴だな。て言うか、そんな所の毛を生やす指輪なぞクソの役にもたたんわ……ん、もしかしてジブルが欲しいのか? コイツ見た目子供だし。いや、考えるのは止めよう。
「それでですね、せっかくっすから、マイ姉様とザップ兄さんにも嵌めてみませんか?」
「「はめねーよ」」
僕とマイはハモる。ただでさえ髭が多くて剃るの面倒くさいのに。あと、マイには無駄毛系の話はタブーだ。
「じゃあ、アンさんに嵌めてもらいましょ」
アンジュはそう言うと立ち上がり、収納から斧を出して右手をテーブルに付ける。
「おいおい、お前何する気だ?」
「え、指を落として指輪を外すんですけど? 呪い解くのって意外に高いっすからね。あ、ちゃんと掃除しますから」
まあ、エリクサーで治せるけど、サイコパスすぎるだろ。
「おいおい、止めろ」
「平気っす。指なんて今まで何度も落としてますから」
どこの裏社会の人間かよ。
「マイ、止めろ。あと隣からシャリー呼んで来い」
なんとか目の前で美少女が指を詰めるのを見ずにすんだ。出会った頃はゴブリンにビビる可愛い冒険者だったのに、今は脳筋という言葉では足りない超越者になっている。力は人をダメにするものなのかも知れない。彼氏出来ないんだろうな。
こんど、彼女を連れて、泣ける劇とかを見せて情操教育を施していくとしよう。
カスのようなヒゲ指輪は、元大神官のシャリーに呪いを解いてもらって、僕の知り合いのカイゼル髭を愛する者が高値で買い取った。髭のトリミングに失敗したときに役立ってるそうだ。
ちなみに興味本位で僕も嵌めてみたけど、カイゼル髭は全く似合わなかった。ある程度顔面偏差値が必要みたいだ……
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