晩夏
「ご主人様ーっ。せっかくなのでー、海にはいりましょーよー!」
口に両手を当ててメガホンみたいにして、ドラゴンの化身のアンが波打ち際から声を張る。緑色のフリフリしたワンピースタイプの水着を着ていて、波に足を洗われている。ぱっと見、清楚な女の子に見えるけど、正体は底なしの胃袋を持つニートだ。最近奴が働いている姿を見て無い気がする。あんまり奴がいじめるので、黒竜王の化身オブはアンに寄りつかなくなった。それで暇だから僕を誘っているのだろう。
今僕たちがいるのは東方諸国連合の最南端の都市国家、臨海都市シートルのビーチにいる。王国に僕が作ったビーチは、もうクラゲ塗れで泳げないが、ここは海流のせいかそんな事は無い。
白い砂浜が長くつづいているけど、ここにいるのは僕たちだけだ。シートルの都市部に接しているビーチは未だに芋洗い状態だけど、ここ、外海に接しているビーチに来る者はほとんど居ない。なぜなら、ここら辺には魔物がのべつ幕なし出まくるからだ。けど、出てくる度にぶっ殺しまくったら、いつの間にか魔物が寄りつかなくなった。多分、魔物の間に今ここに来たらヤバいという情報が広まったのだろう。僕の魔法の収納の中は、海棲系の魔物がしこたま入っている。巨大カニとかエビとかの美味しいものは食べて、それ以外は売っ払ってやろう。
ちなみにここにいるのは、僕とアンとマイだけだ。オブは逃げたし、ジブルとノノはシートルで買い物している。僕とマイはリクライニングのビーチチェアで甲羅干し、アンはばちゃばちゃ水浴びしている。
「ご主人様ーっ!」
アンがしつこく呼んでいる。遊ばないつーの。
「なんだ。俺はもうつかれたー!」
そうだよ、ずっと戦ってたの見てただろ。僕はゴロゴロする!
「マイ、うるさいから、相手してきてくれよ」
「しょうがないわねー」
マイは立ち上がって髪を掻き上げる。ちょっとドキッとしてしまう。白い肌に白いセパレートの水着。すらっと伸びた手足にくびれたウェスト。僕と同じものを同じくらいの量食べてるはずなのにメッチャプロポーションがいい。なんでだ?
マイはビーチボール片手に駆けていく。幾つビーチボール持ってるんだ? 確かさっきマイが叩いて破裂したのを見た気がするが。
だんだん辺りが赤く染まり出す。少し前までは昼が長かったのに、だんだん日の入りが早くなっている。
赤く染まりながらボール遊びに興じている美少女2人を見ながら、僕は収納から仕込んできた飲み物を口にする。赤いその飲み物をなんとなく夕日にかざす。少し豊かな気持ちになる。
ノンアルコールブラッディーマリー、要はトマトジュースだ。少し甘いな。ソルトミルでコリッと一振り塩を足す。アクセントでバジルの葉が1枚入っている。それをストローで軽く潰して口にする。爽やかな香りが鼻をくすぐる。うん、大人の味だ。本物のブラッディーマリーと言うカクテルにはウォッカと言う強い酒が入っているのだが、そんなもん飲んだら一撃死だ。
「夏の終わりと僕たちの未来に乾杯……」
なんとなく呟いて、僕はグラスを上げ口に含む。もうすぐ秋、秋の日はつるべ落とし暗くなる前に帰るとするか。
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