番外編SS 荷物持ちと冒険者の少女達
「ダメね、ていうか雑魚ね……」
マイはアンジュに背を向ける。
アンジュの持ってた木剣は、クルクル回って弧を描き地面に落ちる。
今朝僕の所に四人の少女が訪ねて来た。前に助けてあげた冒険者達だ。僕を荷物持ちとして雇いに来たと思われるが、マイと激しい口論になり一番強いアンジュとマイが手合わせする事になった次第だ。
「実家にでも帰って家事手伝いでもしてた方がいいわ。あなたたちはこの程度の実力だと近いうちに命を落とすわ」
立ち去ろうとするマイの前に四人は立ち塞がると、同時に土下座した。
「鍛えて下さい!」
「師匠になって下さい!」
「なんでもします!」
「ザップさんも説得して下さいよ、一緒に温泉にはいった仲じゃないですか!」
神官戦士のミカが僕の方を向く。
「一緒に……温泉に……入った……」
マイがギギギッとゆっくり僕の方を向く。目がギラギラ光っている。やばい!
「マイ、話を聞け」
僕はマイを宥めて、少女達との冒険を一部始終嘘偽りなく話した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そう、話は解ったわ。けど、あたしだってザップとお風呂入った事ないのに……」
マイはちゃんと話を聞いてたのだろうか? 決して好んで一緒に入浴した訳では無いと思うが。
マイは無言で腕を組んでいる。
ドラゴンの化身の着ぶくれたアンがいつの間にか居てマイの肩を叩いた。
「マイ姉様、ご主人様は馬鹿がたくさんつきまくるくらいのお人好しです。もし、彼女たちの申し出を姉様が断ったら、多分隠れて稽古つけると思いますよ。可愛い女の子たちと隠れて稽古。なにか起こるかもしれないですねぇ」
だから、なにも起こらないって。
「むぅ、それもそうね……ザップは……」
マイは頷き何かに納得したみたいだ。
「しょうがないわね。あなたたち、ついてきて。ザップと修行しなくてもいいくらい鍛えてあげるわ」
「「ありがとうございます」」
少女達は深々とマイに頭を下げた。
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「じゃ、行ってくるわね。ザップ、ご飯はしっかり食べるのよ」
マイと四人の冒険者はリヤカーに乗っている。結構な数の荷物と一緒に。レベルアップのために原始の迷宮に行くそうだ。ここから結構遠いはずだけど。
「では、ご主人様行って参りますね」
アンが引くリヤカーは馬車以上のスピードで走って行った。
それから1週間後、持ってった食糧の量からもうじき帰って来るだろうと思うがまだ帰ってこない。
8日、9日、10日。毎日ご飯の時以外は町の入り口で、ハンマーの素振りをするのが僕の日課になった。
11日、12日、13日。明日には僕も迷宮に向かおうと思った時に高速で近づいてくるリヤカーを発見した。
「ただいまっ。遅くなっちゃった。もしかしてザップ、毎日ここで待ってたの?」
「いや、たまたまだ」
「ふーん、そうなのね」
マイは悪戯っぽく笑う。
行きにリヤカーを引いてたのはアンだったが、今引いてきたのはエルフのレンジャーのデルだ。嫌な予感が……
「ご主人様、只今戻りました。修行の成果は楽しみにしてて下さい」
みんなと挨拶して、僕達は宿屋に戻った。
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「ていやっ!」
戦士アンジュの剣は一振りで二匹のゴブリンの首を刎ねた。
「せいっ!」
レンジャーのデルの放った矢はゴブリンを爆砕する。
「とうっ!」
神官戦士のミカのパンチはゴブリンを四散させた。
「ファイヤーボルト」
魔法使いのルルは、発生させた極太の炎の矢を引っ掴むと、それでゴブリンを両断した。野蛮な戦い方だな、決して正しい炎の矢の使い方ではないな。
ああ、ゴブリンに怯えていた、可愛い駆け出しの冒険者の少女達はもういない。ここにいるのは、大陸有数の冒険者パーティー『ゴールデンウィンド』を遙かにしのぐ人外の魔人たちだ……確かにもう僕が教える事はなにもない。というかやりすぎだろう。
「マイ、なにをしたんだ?」
「ザップと同じ事」
「…………」
とりあえず宿屋に帰って寝よう。明日から僕もしっかりトレーニングしよう……




