姫と筋肉 死霊大戦争(終)
「どんな恵まれた体を持っていても、それを鍛え御さねば最大限にその力を引き出せない。お前はそのための努力をしたのか?」
レリーフの怒声に巨人は動きを止める。あ、こりゃ言葉通じてないかな。ただなんか怒ってるくらいしか感じて無さそうだな。いや、沢山ある顔のうちの1つがレリーフを見つめている。その目には明らかに知性を湛えている。
「ひ、人の子よ」
まるで水の中で喋っているようなくぐもった声がする。巨人の沢山ある顔のうちの1つが口を開く。
「小さな人の子の存在で何を望む?」
巨人の顔のうちの1つが澄んだ目でレリーフを見つめている。
「筋肉だ! 筋肉のみだ! 私の腹筋はシックスパックだ。強いて望みがあると言えば、個人的にはエイトパックになりたい」
レリーフが大声で宣う。なんかいつも通り会話が微妙に噛み合ってないような? 確かシックスパック、エイトパックって腹筋が幾つに割れてるかだったよな。シックスパックだと6つに、エイトパックだと8つに腹筋のコブが分かれている。正直、どっちでもいいんじゃないか? 僕は無意識に自分のお腹を撫でる。え、1パック? いや、プニプニでわかんないだけだ。
「そうか、それが望みか。悪いが言ってる事の意味が解らないから、汝の思念を読ませてもらう……」
レリーフと巨人は静寂の中見つめ合う。なんの儀式なんだ?
「そうか、腹筋の形の事か。うむ、我は8つだ。お前の望み、叶えてやれそうだ。もし、汝が我を倒す事ができた暁には、わが全力をもって、汝にエイトパックを授けてやろう」
「本当か? お前いい奴だな。先程は、お前の筋肉を馬鹿にして悪かった。よく見ればそこまで悪い筋肉じゃないぞ」
「そうか、ありがとう。それではお前の力見せてみろ」
なんか、アイツら頭悪い会話してるな。それに意味不明だ。
あー、僕は何を見てるんだ。暑い中、何が悲しくて見た目が暑苦しい者たちの茶番を見せられにゃあかんのだ。
もう、なんか疲れた。散々引っ張ってオチがこれか……
もう、このあとの展開は解るから、帰りたい。冷たい所でオレンジジュースでも飲んでたいわ。
「いくぞ! ウォオオオオオオオーーーーン!」
喋る顔の声のあと、その他の顔が雄叫びを上げる。うるせーよ。
「かかってこい!」
おいおい、なんでレリーフは上から目線なんだ? 立場的には相手には伝説の巨人だからあっちが上だろ。
「ウオオオオオオーーーン!」
「オラ、オラ、オラ、オラ、オラ!」
百手巨人とレリーフが真っ向から殴り合う。さっきとの違いは、餌をぶら下げられたレリーフの破壊力が根本的に違う。多分さっきは殴られて体を鍛えようと思ってたからだろう。巨人の拳にレリーフが拳を合わせ、巨人の拳は砕けのみならずその腕ごと吹っ飛ばす。
長い間打ち合いは続き、みるみるうちに巨人の腕が無くなっていく。そして、ほぼ巨人の腕がなくなって、レリーフは跳び上がり強烈な右ストレートを叩き込む。巨人は体をくの字に曲げながら吹っ飛ぶ。終わったな。
「楽しかった。お前の望みを叶えてやろう」
倒れた巨人から声が届き、その体が黒い塵となり、掻き消えていく。その塵の1つがレリーフに触れ、レリーフの体が黒いモヤに包まれる。
「な、なんだとー!」
レリーフの叫びが何も無くなった荒野に響く。
「アイツ、テンパックにしやがった!」
近づいて見ると、レリーフが誇示する腹筋は見事にシンメトリックに10個に分かれている。
「巨人、頭や腕が沢山あっただけあって、数が苦手だったんだろな。良かったじゃないか」
「いい訳あるか! 私はエイトパックになりたかったんだ。あの馬鹿巨人め」
レリーフが相手を罵倒するのは珍しいな。それほど怒ることなのか? 巨人よりも、巨人の力を貰うより腹筋のくびれを増やす事を選んだお前の方が大馬鹿だよ。けど、今日はレリーフ機嫌わるそうなので、心の中だけでツッコんだ。
おわり
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