姫と筋肉 死霊大戦争(10)
「ウオオオオオオーーーン!」
まるで、風が荒ぶような声を上げて、巨人が数多の手を振り上げる。レリーフはその前に仁王立ちで構える。あの馬鹿真っ向勝負する気だ。
「かかってこい!」
レリーフに向かってまるで葉を茂らせた巨大な樹木のような巨人が覆い被さるように腰を曲げる。あの巨大なレリーフでさえ、巨人の前で猫と人間くらいの体格差がある。レリーフを猫に例えたのに少し違和感を覚える。レリーフはそんなに可愛いものじゃない。
「グゥアアアアアアアーッ!」
巨人の複数の顔が同時に叫ぶ。不協和音が耳をつんざく。
「オオオオオオオオーッ!」
それに負けじとレリーフも叫ぶ。
まるでイソギンチャクが触手を伸ばすかのように、巨人の大小様々な手がレリーフに覆い被さっていく。その拳は強く握られてレリーフに迫る。襲いかかる拳をレリーフが真っ向から拳で殴りつける。四方八方から殴りかかってくる拳をレリーフはことごとく打ち落とす。まるで背中にも目が付いているみたいだ。だが、多勢に無勢。徐々にレリーフの体に拳が当たり始める。打ち落とすよりも喰らう回数が増え始め、ついには防戦一方になる。
そして、巨人は完全にレリーフに覆い被さり動くものは無くなる。
腕の波に呑み込まれていたレリーフを見ていた巨人の顔が一斉に僕の方を向く。気持ち悪いな。夢に出てきそうだ。
もしかして巨人はあれくらいでレリーフを倒した気になってるのか? 僕は確信している。いつも僕の渾身の打撃を筋肉への良い刺激くらいにしか感じてないあのレリーフにとって、さっきの巨人のへなちょこパンチはマッサージにすらならない事を……
「……ケイト……スザンナ……」
風に乗って微かにレリーフの声がしたような?
「ケイト、スザンナ、ジェーン、イザベル」
レリーフ、明らかにレリーフの声だ。いかん、奴が叫んでいるのは、ケイト=右大胸筋、スザンナ=左大胸筋だけじゃ無く、ジェーン=右上腕二頭筋、イザベル=左上腕二頭筋。要するに活性化させているのが大胸筋のみならず、上腕二頭筋も活性化させて攻撃に転じたと言うことだ。
「ケイト、スザンナ、ジェーン、イザベル、ケイト、スザンナ、ジェーン、イザベル、ケイト、スザンナ、ジェーン、イザベル」
巨人は目を見開きレリーフがいる方を向く。
「ウォオオオオオオオーーーーン!」
巨人の腕が盛り上がり、レリーフを押し潰そうと力を込める。
「ケイト! スザンナ! ジェーン! イザベル! ケイト! スザンナ! ジェーン! イザベル!」
更にレリーフの声が大きくなり、そこから何かが辺りにまき散らされる。よく見ると、それは大小様々な腕だ!
「グゥアアアアアアアーッ!」
巨人は身を起こし、レリーフから距離を取る。そこには何も無かったかのように仁王立ちするレリーフ。そして、レリーフは巨人をビシッと指差す。
「お前の筋肉には愛が無い! お前は私を怒らせた!」
レリーフの怒声が辺りに響く。相変わらず訳が解らない。レリーフの怒りのスイッチは筋肉に関する事だけなのか?
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