姫と筋肉 死霊大戦争(9)
「アレは百手巨人……」
僕は呆然として呟く。なんてことだ……
目の前で未だ手が生えて成長し続けている。今、殺るべきだと思うが、何が有効打になるか解らない。
「今、何て言ったんだ?」
レリーフが素っ頓狂な声で聞いてくる。耳長いのに耳悪いのか?
「百手巨人」
一字一句はっきり発音する。
「ん、屁が飛んで来る?」
馬鹿なのか? レリーフ……
「何言ってやがる。百手巨人だ! 百手巨人っ!」
「何だその屁が飛んでいるって?」
ワザとボケてるのか?
「いい加減、屁から放れろ。ヘカトンケイルだっ!」
たまらず声を張る。
「おいおい、何熱くなってるんだ。そもそも若い女の子が大声で屁なんて叫ぶな。私はお前の事を少しは理解しているから問題はないが、知らない人が聞いたらドン引きするぞ」
「お前が言わせたんだろがっ!」
なんか微妙に僕に品性が無いような言い回しが神経を逆なでする。
「まあまあ、落ち着け。それでアレはなんなんだ。悪趣味なイソギンチャクみたいに見えるが?」
「お前知らないのか? あれは百手巨人。古の最強の巨人で、その強さと醜さ故に、地獄に封印されたと言われている。幾度か古文書にその顕現が確認されたけど、その度に大破壊を行っている」
「そうか、そんな強いヤツなのか。凄いな、さっきのアンデッド。こんな奥の手をもってるとは……」
「何いってやがる。明らかにお前のなんとか波のせいだろ!」
ヤバい、頭の血管切れそうだ。
「え、そうなのか?」
「お前、百手巨人の出現をバッカのせいにしようとしてるだろ!」
「おいおい、冗談だ。そんなに熱くなるな。けど、楽になっただろ。あんな沢山いたアンデッドが、たった1体になったんだからな」
なんだよ。その雑なプラス思考。
「んな訳あろかい! アンデッド数万の方がまだマシだわ!」
はぁはぁ、声を張りすぎた。なんか少し疲れてしまった。いかん。レリーフといるとついエキサイトしてしまう。
「ウォオオオオオオオーーーーン!」
巨人は大地を踏みしめ天に向かい咆哮する。
いかん、レリーフとバカ話してるうちに巨人の変体が終わってしまったみたいだ。もしかして僕たちは貴重な時間を失ってしまったのでは……
それにしてもデカい。かつて見た事がある黄金の竜、神竜王ゴルドランよりでっかいんじゃないか?
巨人の幾つもある目の内の1つと視線が合う。とたんに他の目も僕を見つめる。キモっ。僕は魔力を燃やし目に注ぎ込む。目頭が熱くなり視界が朱に染まる。
火の眼。
僕の誇る、強力な幻覚魔法。眼が合った者に僕がイメージした幻覚を見せる事が出来る。魔道都市アウフで最強クラスの魔力を持つ僕をもってすれば、抵抗出来る者はほぼ皆無だ。かつて英雄ザップ・グッドフェローでさえ容易く術中に落ちた。難点はコスパが悪い事だ。失敗したら何も起こらないのに、かなり消耗する。
「おい、何、キモい巨人と見つめ合ってるんだ? ああいうグロいのが好きなのか?」
「ちがわい!」
ううん、魔法が効かない。抵抗されたと言うより元々効かないみたいだな。巨人はこちらに向かってゆっくりと歩を進める。
「また、ちょこざいな魔法でも使おうとしてたんだろ。そんなあてにならない力に頼るな。最終的に信じられるのは筋肉のみ! 筋肉は裏切らない! 努力したら努力しただけ確実に力になる」
「何言ってる。お前だって死霊魔術士だろ?」
「死霊魔術なんか、便利な生活魔法にしか過ぎない。見てろラパン。これが筋肉だ!」
レリーフは巨人に向けて、ボディビルのポーズ、前で手を組んで大胸筋と上腕二頭筋を誇示するポーズ、モストマスキュラーを放つ。巨人の目がレリーフを捉え、一瞬その動きが止まる。それにしてもレリーフの心臓には剛毛でも生えてるのか? 何災厄の巨人相手にポージングしてるんだ?
「モストマスキュラーからの、フロントダブルバイセップス」
それからレリーフは次のポーズ、両腕を曲げて上げる手の力瘤がでっかく見えるポーズを取る。
「オオオオオーン!」
巨人は唸ると、レリーフに向かって駆け出す。なんかムカついたんだろう。
「よし、準備は終わりだ。かかってこい」
あ、今のは準備運動のようなものだったのね。レリーフも巨人に向かって駆け出す。
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