姫と筋肉 死霊大戦争(6)
「我が統治していたのは、地下百層にも及ぶ大迷宮」
気を取り直したのか、バッカが語り始める。僕は取りあえず地べたに座る。
「それが先日、地下1層と2層が削り取られ、迷宮が悉く水没してしまった」
「おい、待て、お前の迷宮って何処にあったのだ?」
「我が墓所があったのは呪いの湿地帯だ」
呪いの湿地帯ってもしかして、王国とリザードマンの国の間にあった湿地帯の事か? 先日ザップが掘って海水を引き込んで海にしちまった所に奴の迷宮があったのだろう。なんか海が開発されてウミガメさんが卵を産むところが無くなった話みたいだ。もっとも、アンデッドはウミガメさんみたいに可愛いものじゃないし、不毛な湿地帯が海になったので、環境破壊というより、環境改善ではあるが。それに、正直度アンデッドのダンジョンがドーなろうと、どーでもいい。湿地帯に迷宮が有るって話は聴いた事も無いから、人の口にも上らないような、本当にどーでもいい迷宮だったのだろう。
「それで、どうなったんだ?」
「我とわが眷族は、水没してしまった迷宮を後にして、新たな拠点を手に入れる事にした」
「ケイト! スザンナ! フゥオオオオオオオオオオーッ!」
なんかレリーフが奇声を上げる。誰も構ってくれないから寂しくなったのか? ガキか!
「レリーフ、今、いいとこだから黙っとけ」
取りあえずレリーフに収納からエリクサーをかけて黙らせる。これで筋肉が回復するからまた大人しく筋トレに励むはずだ。
「かたじけない。ケイト、スザンナ、再始動だっ!」
「解ったから大人しくしとけよ」
マジで手がかかる。僕はレリーフの母ちゃんかよ。
「お前、今のは伝説の秘薬じゃないのか? そんなものをポンポンと使って頭大丈夫なのか?」
さすがバッカは魔道具とかへの造詣が深いみたいだな。頭大丈夫かとか一定やがるが、話が進まないのでスルーしてやる。
「気にするな、それより、新しい拠点の話だろ」
「そうだ。我らは東にある人の子の城を拠点にする事にした。地下に籠もること数百年。我らは今、全世界に対して宣戦布告する。我は誓う。我とわが眷族の前に立ち塞がる愚かなる者共に、等しく滅びを与えん事を!」
バッカは右手をシュッと斜め前に尽きだして少し香ばしいポーズを取る。
多分バッカは、リッチ系の魔物だと思うが、その程度ででっかい事言い過ぎだろ。重度の厨二病で誇大妄想癖つき。なんかバンパイアやリッチとか意志のあるアンデッドってそんな奴多いな。穴蔵に籠もってると脳みそ腐るのか?
「お前、その水浸しの迷宮で大人しくしてた方がいいと思うぞ。お前が目指している王都には、ばけもんが沢山いるぞ」
「それは無理だな。我が配下の肉を持ちし者たちが、魚や蟹とかに食われてスケルトンになる様を見るのは辛すぎる。我も寝てる時にかなり小魚に食われてしまった」
うえ、気持ち悪。そう言えば水死体って魚に食われるって話聞いた事あるな。アンデッドにとって海は鬼門なんだな。少し勉強になった。けど、アンデッドも寝るのか? どーでもいいけど。
「そんな事知るか。けど、王国に仇なすのなら、僕が相手してやる」
さっき、レリーフにエリクサーかけて思い出したけど、アンデッドってほぼほぼエリクサーかけたら一撃で浄化するんだった。まあ、けど、焼却の方が早いからな。
「ほう、威勢がいいな小娘。我の膨大な魔力は、下位のアンデッドをほぼ無限に召喚出来る。十人相手に出来る勇士は百の凡夫の前に倒れ、百人相手にできる稀代の勇士は千の凡夫の前に膝を折り、千人相手にできる伝説に残るような勇士でさえ、万の凡夫の前には朽ち果てるのみ。数、数の前にはどんな者でさえ無力。出でよ我が地獄の軍団」
バッカが両手を上に上げ、奴を中心に巨大な魔方陣が現れる。増幅しまくった召喚魔方陣、魔力は高くは無いが丁寧な仕事だ。
「バッカはやっぱりバッカだな。数がどうした。0が幾つ集まっても0なんだよ」
「それはどうかな」
よく見ると、地を埋め尽くさんばかりの魔方陣が。
スケルトン、ゾンビ、ゴースト。最下位のアンデッドが見渡す限りに溢れ帰っている。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
それでもレリーフは腕立て伏せに集中している。
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