番外編SS 荷物持ち麺を食する
ドラゴンが近くで鳴いていると言うことで、僕たちが逗留してる町の住民は最小限の家財を持って隣町に避難してしまった。
それから何も起こらなかったので、安全確認のためにドラゴン探索隊が派遣されるが、当然ドラゴンは見つからない。もう大丈夫だろうと言うことで隣町から人々は戻り始めた。
そこで、僕たちには割のいい仕事が発生した。隣町から今いる町への荷物運びだ。僕にとっては荷馬車に乗って町を往復するだけの簡単なお仕事だ。
マッチポンプ。
そういう言葉が頭をよぎるが、振り払う。ドラゴンはただ鳴いてただけ。住民は勘違いして逃げただけ。多分僕たちは悪くないはずだ。そう自分に言い聞かせる。お金持ちからはしっかりお金を貰ったが、そうでない者には無料か、ただ同然で運んだので勘弁してほしい。
もう荷物運び特需が終わりかけたときの事だ。
「ご主人様、避難してた皆さんがあそこが美味しいってよく言ってたんですよ。今なら空いてるから入りませんか?」
ドラゴンの化身のアン、今回の騒ぎの元凶が東方風の暖簾がかかった少しこ汚い食堂みたいな所を指差した。
「そうね、いつも人が並んでいるけど、今日は少ないみたいね」
マイも興味があるみたいだ。
「行くか」
僕たちは暖簾をくぐった。
「おすすめ三つと水3杯」
カウンターに座らされて、僕はすぐに注文する。メニューが来たら面倒くさい事になる。マイもアンも優柔不断でめっちゃ注文が遅いのだ。
「えー、ザップ、選びたかったのに……」
マイがぼやく。
「まあ、まあ、初めての店だ。まずは一番おすすめを頼んで、気に入ったらまた来よう」
外食が多かった僕には一つの経験則がある。店にあるあまり人が頼まないものを頼むと、遅いし不味いしで散々な事が多い。定番が一番だ。
「お待たせしました」
愛想のいいお嬢さんが運んで来たのは、赤いスープに満たされた、上にそぼろとなんかの野菜がのった麺だった。
「「「いただきます」」」
東方伝来の箸を使って麺を取り啜る。そして、スプーンみたいな蓮華でスープを口にする。
「美味い」
つい声がでてしまう。ゴマのはいった味噌のような辛いスープにしっかりとした味のついたひき肉がのっている。
「おかわりもらっていいですか?」
ん、アンはもう食べ終わっている。
ちなみにマイは蓮華に麺をのせてふーふーしてる。全くすすんでない。あ、猫舌だったな。
「親父、もう一杯だ」
アンの食べるのは早すぎる。どうやって食べたんだ?
「お待たせしました」
しばらくして運ばれてきたので、アンの所業を観察する。
「ズズズズズズズズッ!」
アンはどんぶりを両手で持つと、一気に全てを呑み込んだ。
「プファー、もう一杯」
べちーん!
「もう一杯じゃないわ! 飲むな! 味わえ!」
ついついアンの頭を叩いてしまう。けど、もう一杯頼んでやった。
「美味しかったわね」
「そうだな」
「あと、5杯は欲しかったです」
「黙れ、破産するわ」
みんな満足そうで良かった。麺の名は担々麺と言うそうだ。また来る事を誓って店を出た。