姫と筋肉 死霊大戦争(1)
「なんで、お前も居るんだ?」
僕は馬車の中でエンドレスに腕立て伏せをしている生き物に一応声をかける。今回の依頼を引き受けたのは僕だけのはずだ。
「ん、なんでって、私はスペシャリストだぞ」
僕を一瞥もせずにヤツは答える。なんて言うかここまでくると腐れ縁ってヤツだな。
僕の名前はラパン・グロー。普段はとある街でウェイトレスをしているが、お店が改装中のため、今は王都で冒険者をメインにしている。これは一応内緒にしているが、僕は東方諸国連合の都市国家のうちの1つ魔道都市アウフのお姫様だったりする。姫騎士って言葉はたまに聞くけど、姫冒険者って言葉は聞いた事がない。僕がそのパイオニアになって、その言葉を広めていく事にしよう。
いつもは妖精のミネアや、神官のシャリーちゃんと依頼をこなしているのだけど、たまたま僕が1人で依頼を受けた時に限って、奴とバッティングする。
奴の名前はレリーフ。ダークエルフの死霊術士と本人は言ってるが、実際は脳筋格闘筋肉バカだ。常に筋トレに励み、その過積載の筋肉質をさらに進化させようと無駄な努力をし続けている。奴は何処に向かっているのだろうか?
「お前依頼内容をよく見たのか? 雇う冒険者は1人だけど、専門家が同行するって書いてあっただろ。今回は冒険者としてじゃなく、アンデッドのスペシャリストとして私は仕事をしている」
ん、そういえば、死霊学者と同行するって依頼書には書いてあったような? 僕は学者って言うから魔術師ギルドのモヤシのような先生が来るものとばかり思っていた。そういえば、レリーフはアンデッドのスペシャリストではあるよな。死霊術士だし。けど、思い起こすに、奴がアンデッドのスペシャリストとして役に立った記憶が無いような?
今回の依頼内容は、王国の南西部でアンデッドの集団を見たという者が数人いて、その真偽を確かめるというものだ。もし、その集団がいて、それを殲滅したらさらにお金が出るという素晴らしいお仕事だ。僕が得意な魔法は火属性。ゾンビやスケルトンなどの低位な奴らは僕の炎にかかればイチコロだ。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
レリーフが自分の大胸筋につけた名前を連呼しながら腕立て伏せに励む。実際、ここにケイトさんとかスザンナさんって名前の人がいたら、めっちゃ不愉快だろうなと思いながらレリーフを見ている。
奴言うには、筋肉の名前を呼びながらトレーニングすると、より成長してくれると言う。かなりのレベルの変態行為だと僕は思う。
「うおおーっ。もう限界だ!」
30分ほど続けて、レリーフの動きが止まる。けど、よく考えたらヤツは筋トレしている方が無害なんじゃないだろうか? 僕は収納からエリクサーを出してレリーフにぶっかけてやる。これで筋肉痛も回復したはずだ。
「おお、ラパン、ありがとう。これで、再び筋トレが出来る。ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
またレリーフは腕立て伏せを再開する。なんか見ているだけで熱く感じる。レリーフは汗だくになり、床に水溜まりを作りながら続けていく。
ガタン。
急に馬車が止まる。御者台から御者が荷台のほうに顔をだす。そして口を開く。
「先生方、出ましたぜ、アンデッド。アンデッドの大軍です。今からどうしますか?」
「そうだな。ここは私に任せておけ」
「ちょっ、まてっ」
僕の制止の声は間に合わず、レリーフは馬車の外に飛び出した。
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