夕焼け
「ちょっと、ザップ、来て来てーっ」
マイに手を引かれて外に出ると夕焼け。
「ねぇ、ザップ、綺麗でしょ」
「ああ、そうだな」
空の半分は暗い雲が覆い、日の沈んだあとには、鮮紅色の雲がたなびいている。ところどころは暗い青だけど、紅い、とっても紅い。しばらく見とれてしまう。綺麗だ。とても綺麗だ。
「ねぇ」
こっちを向いているマイも紅い。ティタ、間違えてそう呼びそうになってしまう。僕の頭に、ティタ、妹の言葉が思い出される……
「にいちゃ、綺麗だね」
夏は日が長い。今日の採取ノルマを終わらせて家に帰ると、まだ外は明るかった。あの時、僕は妹と2人暮らし。2人しかいない村で2人っきりで生きていた。妹は病弱で、僕は妹のために命がけで働いていた。毎日、毎日。
妹は今日は外で僕を待っていて、その体は赤く染まっている。妹の視線の先は夕焼け。僕も仰ぎ見る。紅く染まった雲。日は沈み、徐々に辺りは暗くなりつつある。紅い雲に暗く青い空。僕はその綺麗さに言葉を失った。
「とっても綺麗だよね。けど、お母さんが言ってた。大人になるとね、綺麗なお花や、綺麗な空や雲も見えなくなるんだって。キラキラな朝露も、宝石を零したような星空も、大人になった人のほとんどは綺麗なものがあっても気付かなくなるんだって。なんでだろう。大人になるっていうのは切り捨てる事なんだって。あたしは、そんな大人にはなりたくないな。綺麗なものはずっと見てたいよ」
「それは、やだな。俺はそんな大人にはならない。ずっと、ずっとずっと、綺麗なものは綺麗だって言ってやる。そうだ。空は綺麗だ。空が綺麗な限り、俺は無敵だ。俺はなんにも諦めないし何も切り捨ててたまるか。今のまま前に前に進んでやる。気付かなくなってたまるか。全部拾ってやる。どんなに辛くても綺麗なものに気付いてやる。ティタ。夕焼けはとっても綺麗だ。それに、赤くなってるティタもとても綺麗だ。ずっとずっと気付いてやる。見つけてやるよ」
「にいちゃ、何言ってるのか訳わかんないよ」
ティタが赤いのは、夕焼けだけじゃないような。
「俺もわかんない。けど、大人になっても忘れない」
「フフッ」
ティタが笑う。
「ハハッ」
僕も笑う。綺麗な世界で僕達は生きている。それだけで幸せだった……
「どうしたの?」
マイは赤い。そしてとても綺麗だ。
「ずっと、見つけるし、気付いてやるよ」
「ん、なんなのよ?」
「空が綺麗な限り、俺は無敵だ」
「訳わかんないよ」
「俺も、なんかわからない。けど言いたかっただけだ。マイ、ありがとう」
最近、夕焼けは綺麗だっただろうか? 僕も日々にあくせくし過ぎていて、大事なものを切り捨ててたんではないだろうか? 今日も世界は綺麗だ。マイに感謝しつつ、夕焼けは暗くなっていった。
今、私の他の作品、『最強最弱聖女』、大盛り上がり中です。よかったら読んで下さーい\(^o^)/
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あらすじ
身を挺してマリー達を助けてくれた勇者アルスの妹のシスターリナを助けるため、聖女マリーと絶世の美少女ハイエルフのベルは暗黒街の有力者ルドラと戦う事になる。戦いの競技はなんと『野球拳』! 互角の戦いを繰り広げるが、なんと2人の残す衣服はパンツのみ。2人はルドラを下し、尊厳を護る事は出来るのか? 次回『最弱聖女』第十五話『戦いの行方』。乞うご期待!!
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