ボディガード (終)
「ザザ……」
つい、アタシは呟く。
ここはコロシアムの控え室。アタシは人払いをして鏡の前に座っている。
あのあと、夢の中みたいなフワフワしたまま、ザザは運ばれて行ってアタシはステージからはけて、控え室に連れて来られた。気持ちの整理がつかなくて、アタシは警備の騎士や付き人には出ていって貰った。とにかく疲れた。まずは帰って寝よう。けど、今日は王城に泊めてもらおう。家に帰る気分じゃない。1人になったらおかしくなりそうだ。アタシは立ち上がる。そしてドアへ向かう。
ゴスッ!
急に胸の所が熱くなる。アタシの鳩尾の所から何か生えている。柄、短剣か何かの柄だ。確かめるように触れた手に生温かいものが触れる。血、アタシの血? 床から人の上半身が生えている。何? それはゆっくりと床から這い上がって来る。覆面で顔を隠した黒装束の痩せた男だ。
「だ、誰、アンタ……」
「アブソリュート。さよならお嬢さん」
男はそう言うと、アタシに刺さった短剣の柄に手を伸ばす。
「やっと、見つけた」
ここ数日聞き慣れた声。ザザ?
「お前は?」
黒装束は再び床に沈み始める。
「何だそれ、便利だな」
「見られたからには死んでもらう」
薄れゆく視界の中、男が地面に沈んで行くのが見える。アタシは膝から崩れ落ちる。
「ふうん、地面の中か影の中を移動してるのか。スキルか。けど関係ないな。『勇者の剣』よ、アイツだけを切れ」
いつのまにかザザが手にしていた煌びやかな剣でアタシの前の床を切る。剣は床が無いかのように床をすり抜ける。床から血が染み出して、さっきの黒装束が地面から浮かび上がって来る。何が起こってるの? あれは、あの剣はなんか見た事があるような気がする。
「ザザ、生きてたの……良かった」
アタシは何とか言葉を絞り出す。何か冷たいものがアタシの上に降り注ぐ。雨? 死ぬ時ってそう言う感じなの?
「死なないって言っただろ」
近づいて来たザザはアタシを抱え横たわらせる。
「悪いな。俺の本当の仕事はアブソリュートの抹殺。お前の護衛じゃなかったんだ」
白みゆく意識の中でそれがアタシの聞いた最後の言葉だった。
「ザザ! ふざけないで!」
立ち去るザザにアタシは大声を出す。
身を起こすと、豪華な調度に囲まれた部屋のベッド。部屋の隅にはメイドが1人。え、ここは王城? アタシは刺された鳩尾の所を触るけど、何もない。え、どういう事? 今まで見て居たのは夢だったの?
「やっと目を覚まされましたね。主を呼んで参りますわ」
王城の最近アタシ担当だったメイドさんが部屋を出ていく。しばらくしてノックの後1人の男が入ってくる。アタシの飲み友達にして、ここの国王のポルちゃんだ。本名はポルスティングって言うらしいけど、長いからフォーマルじゃない時はポルちゃんだ。彼もそれでいいって言っている。
「大変な目に合ったな。ザザは酷い奴だよな。こんな美人を囮にするなんてな」
ポルちゃんは花瓶に生けてある花を弄んだりしている。その顔には全く深刻さが無い。ザザをそれだけ信頼してたって事だ。国王の信頼? 勇者の剣? やっと頭の中でカチッとはまった。
「ポルちゃん。アブソリュートはどうなったの」
「死んだよ。殺すしかなかったんだろう」
「ザザにアブソリュートの討伐を依頼したの?」
「ん、何の事だ? お前の護衛を頼んだだけだぞ。それより、元気になったら2人っきりで飯でも食いに行かないか?」
行かねーよ。ポルちゃんはいい人だけど王様だしね。それよりザザの事を考えて見る。奴はツンデレ。超重症のツンデレだ。言った事は信用出来ない。彼がやった事を考える。命がけでアタシを守って、アタシを狙ってた伝説の殺し屋は死んで、アタシはピンピン生きている。そうね、お礼くらい言ってあげないとね、たっぷりと。
「オイオイ、ライラ、何、悪そうな顔してるんだ? あとな、アブソリュートを雇った奴は魔法で見つかったぞ」
「そんなん、どーでもいいわ。ポルちゃん。ザザ、いやザップはどこにいるか教えて!」
「お前、アイツだけはやめとけ。ロリコンハーレム野郎だぞ」
「何言ってるのよ。そんなの知ってるわ。ただお礼を言いに行きたいのよ。たっぷりとね!」
何とかポルちゃんから居場所を聞いた。今度しっかりお礼に行ってやるわ。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。