ボディガード (10)
リハーサルやトレーニングなどで1日が過ぎ、何事も無くコンサートの当日を迎えた。ザザは相変わらずアタシのそばにいて目を光らせている。まあけど、そばにアタシのような魅力的な女が居るのにもかかわらず、お風呂を覗かれる事も無く、夜中寝室に来る事も無かった。やっぱり否定していたけど、ザザはロリコンなんだろう。
今日のコンサートの会場は王立コロシアム。前に荷物持ちザップと勇者の何とかが戦った場所だ。ザップがアタシに勇気をくれたように、アタシも誰かに勇気を与えられるように、目いっぱい歌ってやるわ。今日は歌姫ライラのサマーフェスティバル。うだるような暑さの中、コロシアムは超満員。アタシはステージに飛び出した。
まずは新曲。夏の恋を歌ったポップな曲だ。そして、何曲か歌いステージの袖を見ると、ザザはちゃんと居る。警備は厳重で、そばに居るのは身元がしっかりした人のみだし、ステージに観客が登って来る事などまず無いはずなので、間違いなく安全だと思うのだけど、やっぱりザザを見ると落ち着くわ。奴はメッチャ強いから。それに、奴はいっつもふてぶてしい態度を壊さない。今も必殺の殺し屋と戦わないといけないかもしれないっていう緊張感が全く無い。だから、アタシも狙われているのが本当なのって気持ちになる。アタシは歌の合間にザザに手を振ってみる。奴は気付いたのに、あさっての方向を見る。照れてやがるわね。
そうこうしてるうちに、最後の曲になる。これはアタシがストリートの頃から歌い続けた曲だ。内容はざっくり言うと、追い続ければ夢はきっと叶うって事。アタシはこの曲を繰り返し繰り返し歌って、今の場所に登りつめた。
アタシは願う。ここにいる全ての人の夢が叶いますように。あ、アタシを狙ってる殺し屋の夢だけは叶わないで欲しい。
ザザをチラ見すると、こっちを向いている。さすがにザザもこの曲は気に入ってくれたんじゃないかな?
「「アンコール! アンコール!」」
アタシが帰ろうとすると、お約束のアンコールのコール。けど、今日は凄いわ。まるで観客の声が雷みたい。足踏みも混じってまるで嵐だわ。
そしてアタシはもう一回同じ曲を歌う。観客も巻き込んで、世界はアタシの歌に包まれた。
そして、アタシは戻ろうとする。
「「ライラちゃーん!」」
ゲッ、警備の一角が崩れて観客がなだれ込んでくる。アタシは全力で歌って踊ったので、今は、体が鉛のように重い。ヤバい、あの中にアブソリュートがいたらやられるわ。逃げないと!