ボディガード (9)
「ほとんどのアブソリュートの手口が下から心臓を一突き。確かに心臓は下からの方が狙い易いが、不自然ではあるな」
ザザは紙の束をアタシに渡す。
アタシ達は家に帰ってリビングで寛いでいる。本当はすこし買い物したかったんだけど、付き人に買いに行かせている。ザザが早く資料を読みたがったからだ。
アタシは、その紙の束にざっと目を通す。彼の言った通り、ほとんどの事件は下から心臓を一突き。犠牲者は商人、騎士、冒険者、貴族など様々で、王子様やそれに連なる王位継承者までいた。かなり強かった騎士ですら、一撃で殺されている。アブソリュートってどれだけ強いんだろう。アタシは鳥肌が止まらなくなった。下から一突きっていうのが頭に引っかかる。
「ねぇ、もしかして、アブソリュートて子供なんじゃない?」
「もしかしたらそうかもしれんが、それは薄いだろう。城で行われた舞踏会が現場だったやつもある。アレは子供は居ないだろう」
え、やっぱりザザって貴族? 舞踏会に行った事あるの? アタシは歌を歌うだけで、ドレスを着て躍った事はないわ。1度でいいから綺麗なドレスを着て躍ってみたい。と言っても、ザザは躍れるの? いかんいかん、それより、今はアブソリュートの事だ。あと、下からって言ったら。
「じゃあ地面の中に隠れてて、そこから襲いかかってきた」
「そうだな。それも視野に入れてた方がいいかもな。何らかの魔法を使う奴なのかもしれない。ここにあるだけで、20件以上。そんなのを目撃者無しにやってるって事はなんかスキルや魔法が関わってるかもな。けど、そうなら全く予想がつかない。魔法やスキルは俺の予想を上回るようなのもたくさんあるからな」
「じゃ、どうすんのよ?」
「まあ、何があってもすぐに近づける距離に居るくらいしかないな」
そう言うとザザはコーヒーを口に含み、目を瞑った。ザザはしばらく何も言わず、ゆっくりと目を開く。コイツ本当に何か考えてるのか? 考えてるフリじゃないの?
「あと、お前、狙われてるって解ってるって事は、何か予告状的なモノも貰ってるんだろ?」
「うん、国に渡したけど、内容は次のコンサートの後に殺すって書いてあって、ファンレターの中に紛れ込んでたわ」
「それならコンサートやらなければ狙われないんじゃないのか?」
「嫌よ。絶対やるわ。アタシは歌姫。歌しか無いわ。ずっとコンサートやらないなんて無理」
「ならしょうが無いな。で、次のコンサートは何時なんだ?」
「明後日よ」
「そっか、それなら明後日が、そのアブソリュートってクソ野郎の命日だ。じゃあ俺は寝る。お前もとっとと寝ろ」
そう言うと、ザザはソファに横になって、すぐにイビキをかき始めた。ここアタシんちなんだけど。めっちゃ寛いでいるわね。大丈夫なのコイツ? けど、いつの間にかアタシの鳥肌は収まっていた。