番外編SS 荷物持ち少女たちの荷物持つ(中編)
「うわっ、ミカ凄っ! 触ってもいい、ていうか触ってやる」
アンジュの興奮した声がする。
「きゃあ、止めてアンジュくすぐったいってばぁ」
ミカの高い声が水音にまじって聞こえる。なんで、女の子ってスキンシップ激しいのだろうか。それに、忘れてるよね、僕がいるの。後ろを見たい誘惑にかられる。拷問だ。
ここは岩山の中の窪みに温泉が湧き出ている形で、辺りはむき出しの岩が多く背の低い木々に囲まれている。秘湯って感じだ。
「ルルも凄いな、う、浮かんでる」
デルの落ち着いた声が聞こえる。
「デル! ドサクサに紛れて触らない。デルだってとっても綺麗だよ」
「やだぁ、ルルやめてよぉ」
ついつい、デルとルルの会話で内容を想像してしまう。いかん、相手は少女達だ。変なとこが元気になりそうだ。
集中して思い出す。ミノタウロス王との1対1の死闘を。
ミノタウロス王は僕を視界に捉えると斧を握る手に力を込める。どうする、どう攻める?
「うわ! アンジュ柔らかーい」
「もうっミカ、ちょっと、力強すぎー!」
よし、狙うは胸だ! 僕は素手でミノタウロス王の鋼の胸板に手を伸ばす。何やってんだ。ミノタウロス王の胸を触ってどうする。当然、王はすんでで避けて斧による強烈なカウンターを放つ。僕はもろに喰らって吹き飛ぶ。いかん、雑念が振り払えない。しょうがない、僕だって男だ、見たいし触りたいーっ!
「うごくのを止めたほうがいい」
口に食べ物を入れたまま話しているような低い声がする。
「ゴ、ゴブリン!」
アンジュが叫ぶ。
どうやら、ゴブリンの襲撃みたいだが、どうしたものか?
恥ずかしながら、女の子たちの声と心の中のミノタウロス王のお陰で全く気付かなかった。
「そっちを向いてもいいか?」
一応許可とらないと、みんな裸のはずだから。
「好きにしろ! そんな事より、逃げろ荷物持ち」
デルが声を張る。許可は取った。
振り返ると女の子たちは胸を隠して背中合わせで湯の中に立ち上がっている。腰から下は濁ったお湯で見えないけど、最高だ目の保養になる。
「荷物持ちさん、あたしたちをおいて逃げて下さい」
神官戦士のミカが僕の方をむく。うんデカイ。手に収まってない。
「お前は逃げるものいい。不味そうだから」
不味そうとは失礼だな。
汚い声の主を見る。でっかいゴブリンだ。デブで王冠を被ってでっかい岩の上でふんぞり返っている。目の毒だ。
それを中心に20匹位のゴブリンが弓矢を構えている。うん、絶対絶命だな。
いい子たちだから助けるけど、なんか下心あるみたいでよろしくないな。そうだな。
「お嬢ちゃん達、君たちを無事に町まで運んだら報酬を倍もらってもいいか?」
「おじさん、何言ってるのよ、戦えないでしょ逃げて」
魔法使いのルルが振り返る。こっちも大きくて綺麗だ。もう十分報酬はいただいた気もする。
「ありがとう。荷物持ち。戦いもせずに諦める所だった。もし、無事に帰れたら喜んで倍払うよ。みんな、最期まで諦めるな」
アンジュは三人の前に立ち両手を広げる。盾になって、他の三人が、武器を取る時間を稼ぐ気か?
「交渉成立だな」
僕は荷物を置くと跳躍し、アンジュの前に降り立った。