ボディガード (5)
「ザザ、絶対に覗かないのよ。絶対だかんね」
「おいおい、それはフリなのか? 安心しろ俺はお前なんかに興味ない」
ザザはアタシには目もくれず、家のリビングで雑誌を読んでいる。『王都の鍛冶師連合速報』とかいう退屈極まりなさそうなタイトルにイラッとする。目の前にアタシがいるのに何そんなの読んでんのよ。て言うかそんな雑誌、家には無かったはず?
その前に……
「ほら、ザザ凄いっでしょ。コレ魔道シャワーの最新作よ」
アタシはハンディータイプの魔道シャワーをザザに見せる。なんと、これってコードレスで、辺りの魔力と所持者の魔力を吸収して所持者が望む温度のシャワーを出してくれる。魔道都市アウフの今年の最新作で、軽く家が建つくらいの金額がする。高い買い物だけど、これがあれば毎日シャワーを浴びる事が出来るのよ。
「そうか」
「え、それだけ?」
魔道シャワーよ、魔道シャワーの素晴らしさがわかんないの?
「どうかしたか?」
「ザザ、あんたってもしかして体を洗わないタイプの人間? それならとっとと家から出てって」
ザザに抱っこして貰った時にはなんも臭いはしなかった。だから清潔にはしてると思う。簡単に体を拭くだけの人特有の煤けたような臭いはしない。あの臭いがアタシは大っ嫌いだ。昔の事を思い出す。けど、ザザに抱っこして貰った事を思い出してすこし顔が熱くなる。
「ん、出て行ってやりたい所だが、残念ながら俺は毎日風呂に入っている。シャワーじゃなくて浴槽に浸かる主義だ」
え、やっぱりコイツめっちゃ金持ちじゃん。家に浴槽つきのお風呂があるの? どこのボンボンかよ。家にもちっちゃい浴槽はあるにはあるんだけど、溜めたら魔力切れでシャワーが使えなくなる。やっぱ髪の毛はシャワー無いと不便だし。
「そりゃアタシだって浴槽に浸かりたいわよ。けど、街のお風呂に行ったら凄い事なるし、毎日アタシ1人のためにお湯はるのもったいないじゃん。で、アンタんちの浴槽ってどれくらいの広さがあるの?」
「ん、そうだな、この部屋くらい? いやもっと広いか?」
「え、まじ?」
この部屋くらいって、家のリビングは結構広いわ。20平米くらいはあるわ。そんな広い浴槽があるのってお城くらいじゃないかしら。と言う事はザザは貴族? コイツは短い付き合いでも解るのは嘘をつかない。だから、本当に家にでっかい浴槽があるって事よね。あー、そんなお風呂に1人で入ってみたい。
「もしかして、ザザって貴族様なの?」
アタシは恐る恐る聞く。さすがにアタシのザザへの態度はもし貴族だったらヤバい。無礼打ちもんだ。
「んな訳あるか」
相変わらず。くそ雑誌から目を離さない。貴族じゃなくて、でっかいお風呂。あっ、露天風呂!
「あ、わかったわ。アンタ北の山育ちで、山にある温泉ってヤツを自分のお風呂って言ってるのね」
「温泉……。なんとも言えんが、家の中に風呂はあるよ」
ザザはやっとこっちを向く。それにしても、やっぱり、一流の冒険者ってべらぼうなお金持ちなのね。家にでっかいお風呂があるなんて。
「じゃ、今度落ち着いたらお風呂貸してよ」
「……ああな、今度な……」
ザザの目が泳ぎまくっている。何かに動揺してるみたい。これ程分かりやすい男、そうは居ないわね。アタシがザザんちのお風呂に入るのがやな訳ね。これは絶対に行ってやるわ。
それより暑いから早くシャワー浴びよ。