ボディガード (3)
「城に戻るぞ」
ザザは憮然とした表情でアタシの前に立ち塞がる。
「嫌よ。アンタ強いんでしょ。アタシを守ってみなさいよ。あんなムサい男ばっかのとこにいたら頭おかしくなっちゃうわ」
アタシはザザを押しのけて歩き始める。
城の中は騎士だの衛兵だの男ばっかで、女性は煮炊きの人間やメイドさんしか居ない。なんて言うか臭いし、暑苦しいし、みんなアタシをなんかやらしい目でジロジロ見てくる。まあ、そこまで嫌って訳じゃないけど、歌姫ライラを演じ続けるのは疲れるのよ。やっぱ仕事やリハーサルが無い時には家でゆっくりしたいものなのよ。
歩いて家に帰るアタシに渋々ザザはついて来る。今はフードを目深に被ってるから顔バレしないと思うけど、この暑い中この格好はないわ。怪しさ全開よね。帰ったらまずはシャワー、シャワー。魔道シャワーはかなり高額だけど、今のアタシの稼ぎなら楽勝。ザザびっくりするでしょうね。
「ねぇ、ザザ、アンタいつもは何してんの?」
「冒険者だ」
「ちょっと、アンタ、このアタシが話しかけてるのよ。もっと愛想良くしなさいよ。また大声出して衛兵呼ぶわよ」
「それは困る。怒られる」
何に怒られるのかは知らないけど、この唐変木をからかって家路までの暇つぶししよう。
「アンタどんなタイプが好きなの。大声出されたく無いなら、すぐに答えなさい」
「猫」
「猫ってアンタ、好きな動物じゃなくて、好きな女の子よ。例えばギャル風とか、清楚系とか、セクシー系とかあるでしょ」
「猫系?」
ダメだ。全く話が噛み合わない。
「猫系ってなによ。しかもなんで疑問形?」
「すまんが、解らん」
なんかコイツの弱点見つけた気がするわ。
「アンタ、女の子嫌いなの?」
アタシはザザの腕を取ってしなだれかかる。
「そ、そんな事は無い……」
ザザは耳まで赤くなってる。コイツ多分、女の子に免役皆無ね。メッチャ強いからお金持ってるはずなのに、遊んだりしてないのかしら?
「女の子がいるお店とかには行った事ないの?」
アタシはフードを取って上目づかいにザザを見る。
「俺は、そういうのは苦手だ……」
ザザは目を逸らす。マジ、その年で金もってて遊んだ事無いとか天然記念物もんよ。アタシはスラッとした自慢の指でその顎を引いてアタシの方を向かせる。
「アタシはそう言う純情な人、好きだニャン」
上目づかいであざとかわいさマキシマムでザザの好きだという猫要素を入れてみる。
ザザとアタシは見つめ合う。アタシの勝ちだわ。ザザはゆでだこのように真っ赤になる。ププププッ!
「キャハハハハッ! ザーコ、ザーコ。嘘に決まってるじゃん。アタシがアンタみたいなザコ野郎好きになる訳ないじゃん」
アタシはザザの手を離してポンと押す。あの強いザザがたたらを踏む。アタシが暗殺者ならザザをやっつけられたはず。ザザの表情が目まぐるしく変わる。照れから、ちょびオコ、そしていつもの無表情。けど、なんか憮然が少し入っている。
激ツヨのザザのマウントを取れてアタシはかなりスッキリした。これからもこのネタでいじってやろ。
「ライラさん! サイン下さい」
「ライラさん!」
「ライラさん!」
いけね。うわ、顔出したの忘れてた。ワラワラと男共が群がってくる。
「貸し1つだ」
アタシの手が引かれたと思うと、体が浮く。
「アンタね。何してるのよ。逆にアタシが貸し1つよ」
ザザはアタシを抱えて、人としてはあり得ないようなジャンプをした。しかも俗に言うお姫様だっこ。
「何ザザの分際でアタシに触れてんのよ」
「すまん、ビビったか? 漏らしてないか?」
たしかにチビりかけた。だってメッチャ跳んでんだよ。
「んな訳ないでしょ! アンタ報酬減額よ」
着地の衝撃が体に響く。どんだけなのよ!
「また行くぞ」
「キャッ!」
またザザは大きく跳ぶ。ついしがみついてしまう。マウントは三日天下だったわ……
それから、さっきの意趣返しか、数回ザザは跳んで、アタシはそれでドキドキが止まらなかった。なんなのよ、加減しろよ!