ボディガード (1)
「ええーっ、なにアンタ。本当にアンタが王国最強のボディガードなの? 嘘だったら報酬ビタ1文払わないかんね!」
アタシは目の前の男をじっくり眺め回す。ここはちゃんとしとかないと。かかっているのはアタシの命。
ここは王城の一室の瀟洒な部屋。アタシの名前はライラ。王国一の大人気の歌姫にして絶世の美女。スタイルは抜群で、エルフでさえ霞むような美貌。そのアタシは今命を狙われている。そして国王陛下におねだりして来て貰ったのがこの男。
目の前の男は、どこにでもいるような顔で、身長も普通。強いて言えば筋肉質だけど、そこらの肉体労働者とあんま変わらない。ていうか、無いのよオーラが。アタシはそこそこ有名だから、この世の猛者と呼ばれる者を幾人も見たことがある。王国騎士団長、王国最強の冒険者パーティー、王国最強の宮廷魔術師。その人たちに共通だったものがオーラ。口では言いあらわせないけど、なんていうか、普通に人混みにいても、目立つような何かがあった。けど、コイツにはそれが無い。
「王国最強のなんたらかは知らんが、俺は呼ばれて来た。不満があるなら帰っていいか?」
「え、嘘、アンタ、ホモかインポなの? このあたしの護衛が出来るのよ、普通だったら嬉しさで小躍りするわ。この国の騎士団長も勧められたんだけど、相手がヤバいみたいだからアタシが断ったのよ。騎士団長めっちゃ悔しがってたわ。アタシの為なら死んでもいいって思ってる男なんて星の数程いるのよ。それなのに、アンタ帰る気? 頭大丈夫? このアタシの護衛が出来るかもしれないのよ!」
「うるせー奴だな。邪魔したな。じゃあな」
え、嘘、本当に帰る気?
「解ったわ。アンタもビビったんでしょ。相手はアブソリュート。未だ一回もしくじった事が無い殺し屋だもんね」
男の耳がピクリと動く。やっぱコイツはホモだわ。アタシの事には全く興味無さそうだったのに。殺し屋の名前に反応した。
「ほう、話を聞かせて貰おうか。そんなに凄い殺し屋なのか」
男は目をキラキラさせてテーブルについた。変な奴だわ。
アタシはアタシが知ってる情報を男に話す。
「ほう、金を貰えば、誰これ構わず絶対に殺す殺し屋か。クソヤローだな。この依頼受けよう。勘違いするなよ。お前を守るためじゃない。俺が気に食わないから引き受けるだけだ」
「ちょっと待ってよ。アタシは認めないわ。アンタ本当に強いの?」
「そんなの知るか。俺は俺が好きなようにやるだけだ。お前の意思なんか関係無い」
そして、アタシとその訳が解らない男との共同生活が始まった。