終わりなき戦い
「ザップ、まだ早いわ。いじりすぎ!」
マイの叱責が飛ぶ。『まだ、早い。いじりすぎ』ここだけ聞くと、なんか少しエッチだが、いまの状況を見ると誰もそんな事は考えないだろう。阿鼻叫喚なうだ。
「ちょうどよくなりかけたら、白いのが出てくるから、それから動かして」
売り子のルルが肩を震わせている。この言葉だけ聞いたら間違いなくアウトだ。ルルの頭の中では間違いなく、よろしく無い方向に脳内変換されている事だろう。これが薄い本にならない事を祈る。けど、マイは必死だ。手を動かしながら懸命に僕にアドバイスをしている。マイが言うように、少し白い煙が出始めてから裏返す。白いのじゃなくちゃんと白い煙って言えば誤解を招きにくいのに……
僕たちが今何しているかと言うと、祭りの屋台で串焼きを焼いている。元々僕たちは夏祭りを楽しんでいたのだが、急遽手伝う事になった。この屋台は、家の隣のレストラン、『みみずくの横ばい亭』が出しているのだが、ここで働いていた忍者ピオンが暑さに倒れてしまい、そこにちょうど僕らが居合わせた訳だ。ピオンはノノとアンが看病していて、オブは材料の運搬をしている。マイは肉を串に刺して、僕が焼いている。始めはマイが焼いて僕が串を刺していたのだが、なんせ僕は不器用だ。どんどん仕込みが遅れていって、痺れを切らせたマイと交代した。
それにしてもメッチャ暑い。この暑い中、僕、マイ、オブがやってる仕事を1人でこなしていたピオンはまさに超人だ。そりゃ熱中症で倒れるわ。もともとはそんなに売る予定では無かったそうだけど、ピオンの串焼き屋は大人気で行列も途切れない。けど、そりゃそうだ。ピオンには僕の収納の権限を渡しているがら、材料は全く劣化しない。新鮮極まりない肉を使ってるから間違いなく旨い。
「ザップ、いい感じ。一回裏返すだけで仕上げる積もりで焼くのよ」
マイに言われた通り、焼き台に並べた串をギリギリまで引きつけてから裏返す。心なしか今までより上手くいったヤツは肉が大きくて焼けるのが早い気がする。
「いじるといじる程、温度が下がって焼けるのが遅くなるの。焼けるのが遅いと煮たような感じになって、旨味が逃げ出しやすくなるのよ。それに表面が固まりにくいから縮みやすいわ。いい感じ、その調子でお願い!」
鬼のようなスピードで肉を串に刺しながらマイが説明してくれる。
注文が入ったものをマイが僕に渡して僕が焼く。 そして、焼き上がった串をルルに渡すと、上手く振り分けてお客さんとやり取りする。三位一体で上手い感じに屋台を回していく。
余裕が出来てきて前を見ると、恐ろしい長さの行列が……
終わりなき戦いだな。けど、悪い気分じゃ無い。聞こえてくる『美味しい』って声がちょっと嬉しい。
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