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 夜番


「まずは、絶対に火を絶やさない事。それと、何かが近づいて来たらみんなを起こせ」


 リーダーの戦士はそう言うと、天幕の中に引っ込んで行った。


 今から僕の見張りの番だ柄にも無くなんかドキドキする。一緒に見張りをするのはドワーフの神官さんだ。彼は叩き上げの冒険者らしいので、学べる事は多いと思う。何故、僕がこんな事をしてるかと言うと、話は昨日の夜に遡る。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いや、まじ有り得ないって」


 ノノがその端正な顔を顰める。何言ってるんだ。そんな事知らんつーの。何で奴が僕をディスってるかと言うと、バーベキュー用の火が消えてしまったからだ。


「おいおい、消えたらドラゴンブレスでまた着火すればいいだけだろ」


「ザップ、まじでそう言ってるの? 基本的に魔法は最終手段。魔法が無くて解決出来る事は出来るだけ自力でするのよ。もし、いざと言う時に魔法が枯渇したら目も当てられないわ!」


 ノノは語気を強める。僕の収納能力は魔法じゃないって言い訳しようかと思ったが、それは火に油を注ぐようなもんだろう。さらにノノがヒートアップしそうだ。


「マイ、もしかして、ザップって戦闘以外無能なの?」


 ノノに見据えられたマイが目を逸らす。おい、それって肯定してるって事だよな?


「まあまあ、落ち着いて下さいよ。ご主人様は特殊で、迷宮探索特化型だから、フィールドワークはあんまり知らないんですよ」


 なんと、この僕が非常識の塊のドラゴン娘からフォローされている……


「解った。確かに俺はフィールドワークは苦手だ。というかやった事があまりない。そうだ、しばらく明日から修行する事にする!」


 かくして、僕は荷物持ちとして実力を隠して中堅冒険者の下で修行する事になった。

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 僕が今厄介になってるのは『ザ・モール』という、隊商の護衛や、魔物討伐をメインに稼いでいる中堅冒険者パーティーだ。僕はチャップという魔法の収納を持った荷物持ちとして、このパーティーに雇われた。だて眼鏡をはめただけで、誰も僕がザップだと気づかない。そうだよ、僕の顔は地味だよチクショー!

 彼らが引き受けた依頼は、街道の安全性の確認。王都から南東に伸びる街道に危険な魔物が居ないかの調査だ。南東に伸びる長い古い街道は、いまは需要が無くなり使う者があまり居ないので、たまに冒険者が調査に雇われている。ただ往復するだけで幾ばくかのお金が、貰える堅実な仕事。誰も見向きもしない依頼だ。『ザ・モール』は自分たちの実力を鑑み、決して危険な依頼は受けないそうだ。なんか僕には耳が痛い話である。そのパーティーメンバーは、戦士のおっさんと、ドワーフの神官戦士、魔法使いのおっさん、盗賊スカウトにして武闘家のおっさんと言う、おっさんしかいない。名前は聞いたのだが、おっさんなので即座に忘れてしまった。


 そして、一日歩き、夜になって野宿。順番に見張りを立てて寝る事になった。戦士と盗賊のおっさんがまず見張りに立ち、そして次が僕とドワーフの神官戦士、最後が魔法使いで、3時間おきに交代で見張る事になった。正直見張りなんて寝てても敵が来れば起きるだろと思うのは僕たち上級者の考えだ。

 そして、天幕で寝ているのを起こされ僕たちの番になった。


「おっさん、何してるんだ?」


 ドワーフのおっさんはたき火の中の炭を長い棒で一定時間おきにいじる。暇つぶしなのか?

 

「おめー、本当に素人なんだな。これはだな、燃えてる木の回りについた灰を落としてるんだ。灰がついてたら木が燃えねーんだよ。物を燃やすには空気が必要だ。上手く薪を組んで空気が入るようにしながら、あと薪についた灰を落としてやらんと火が消えちまう」


 燃えるのに空気が必要ってのは知ってたが、そんな事しないと火が消えるのか。1つ勉強になったな。いつもはアンのブレスをちゃっと出してボーッだからそんな事考えた事が無かった。


「あと、目ー瞑っててもいいが寝るなよ。変な音がしないかずっと聞いとくんだ。どんな魔物でも歩くと音がする。目を瞑ると、よく音が聞こえるから、変な音がしたと思ったら目ー瞑ってみろ」


 ドワーフのおっさんはお節介焼きで、それからも色々教えてくれた。ここら辺に生えてる食べられる雑草の事や、星を見て方位を知る方法。雲の形と風向きでこれからの天気を予測する方法など、知らない事ばかりだった。


 そのあと、何事も無く依頼を達成した。報酬は大した事なかったけど、色んな知識を手に入れた。正直、迷宮探索よりもフィールド探索の方が奧が深いなとしみじみ思った。まあ、迷宮は世界の一部でしか無いし、外の世界は広いし多様だ。まだまだ、僕は知らない事ばっかりだから、今後はもっと色々な事をしていこう。

 

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