森人と子供族
「それでは、パム、修行の成果を見せて下さい」
エルフの麗人デルがまるで慈母のような微笑みを浮かべる。
「わっかりましたー! デル先生、オイラ、全力でイクっすね。イッて、イッて、イキまくるっすね!」
子供族の愛くるしい少年のパムが朗らかに笑う。けど、その目がなんか下卑ている。目尻が下がり、涙袋あたしが上がっていて、目が「へ」の字を描いている。言ってる言葉もなんか下品だし。間違いなくパムはエロい事考えてやがるな。けどギリギリ今の所はデル的にギルティじゃないみたいだ。
今日はデル先生の格闘技講座イン渓谷。川での戦いを練習している。みんな水着で、ぱっと見はバカンスだ。
腰まで川に浸かったデルと、首まで川に浸かったパムが今から組み手を行う事になった。それにしても、わざわざデルと戦うなんて奴には自殺願望でもあるのか?
デルとパムが対峙する。デルは動かないのに対し、パムは悠々と歩いていく。弧を描くようにデルの川上に向かっていく。そしてパムは大きく息を吸う。
「川はいいよね~♪ サイコーだーよね~♪ オイラの気分は今日は河童ーっ♪ 河童の好物は胡瓜ーっ♪ どんな女の子も大っきい胡瓜はだーいすーきーさ~♪」
パムはまるで、天使のような声で阿呆みたいな歌を歌う。手で水面をバシャバシャ叩きながらビートを添えている。気分悪いわ。間違いなく声に呪力を乗せている。奴の職業は吟遊詩人。歌に魔力を込める事で、様々な奇蹟を起こす。間違いなく今の歌はデバフ系だろう。ほんの少し体が重くなった気がする。
ジャポン。
パムが水に潜る。
「ブブーッ!」
パムの口からデルに向かって勢いよく水が放たれる。きったねー奴だな。
パムの放った水鉄砲をデルは顔を若干しかめながら躱す。その時にはパムの姿は消えている。水に潜ったのだろう。そして、しばらくするとデルの川下に飛沫があがる。
「プッファーツ」
パムが水面から顔を出す。そして、まるで勝利のトロフィーを掲げるかの如く、右手を突き上げる。そこには白い布。
「お宝ゲーーーーーット!」
満面の笑みを浮かべるパム。まるででっかいカブトムシを捕まえた少年のように眩しく邪心の無い笑顔だ。きったねー撹乱攻撃に度の過ぎた悪戯。こりゃ、死んだなパム。
「それがどうしました? なかなかの加速でした。まさか私のカウンターをかわしパンツを千切り取るなんて。パンツの無い私は戦えないと思ってたのかもしれませんが、私は収納から出した予備を穿いてます。かかって来なさい。パム」
デル先生が抑揚の無い声で滔々と語る。こりゃ、怒り心頭だな……
「え、何で? この勝負オイラ的には勝ちだ。オイラは目的の品を手に入れたからね。デル先生の生パンツ!」
パムはデルのパンツを頭に被ると、高速で川を下り始めた。
「えっ……」
デルはパッと赤くなる。
「パム! 待ちなさい! 返しなさい!」
デルは泳いで追っかけ始めるが、パムは驚く程遠くへ逃げている。逃げ足なら奴は間違いなく最強だ。
「イッて、イッて、イキまくるぞー!」
遠くから聞こえるパムの嬌声。
「パム! 待てーっ!」
それに応えるデルの怒声。
「んー、ザップ、2代目猿人間はパムに決定ね……」
マイが2人が消えった方を見つめている。
「勘弁してくれ、なんか俺もそんな感じでサル並みに盛ってるみたいじゃないか……」
そしてしばらくして、ボコボコに顔を腫らせたパムがデルに引きずられて帰って来た。