格闘技講座イン渓谷
「それでは体は温まりましたね」
エルフの麗人デルはそう言うと心臓を叩き始める。白いブラジャーで覆われた形良い胸がプリンプリン揺れる。今日はなんとデル先生はセパレートタイプの水着だ。こうして見ると、特にスラッと伸びた白い足が眩しい。眼福ではあるが、なんかデルの仕種はおっさんみたいだな。なんか水に入る時に心臓叩く人っているが、これって何の効果があるのだろうか? けど、僕たちは一応師匠であるデルがやってる事なのでそれに倣う。
今日はデル先生の格闘技講座。とっても久々な気がする。最近雨が多かったのと、クソ暑くなってきたから中止がちだった。けど、今日は涼しい渓谷に来ている。しかもみんな無骨な道着ではなく水着だ。メンバーは僕、マイ、アン、マッスル黒エルフのレリーフと、子供族のパムだ。僕は普通にトランクスタイプの水着。マイは白いフリルがついたチューブトップとパンツの水着。アンは緑色のワンピースタイプ。黒いブーメランパンツのレリーフと、赤いブーメランパンツのパムは視界に出来るだけ入れないようにしている。
何故水着かと言うと、今日は水中訓練だそうだ。河原で足元に気をつけながら準備体操と柔軟をして、今から水に入る。かなづちな僕は水に対して苦手意識があるから、それを克服するには丁度いい。
僕たちはデルに続いて川に入っていく。おおおっ。メッチャ冷たい。
「キャッ。冷たーい」
「そうですね。ブレス数発叩き込んで温めましょうか?」
「オイラ、オシッコちびっちゃいそうだよ」
僕たちはワイワイしながら、川の深めな所まで連れて行かれる。腰まで水に浸かってる状態だ。
「はい、はい。それではまずは基礎練習を始めます。足場が悪いから気をつけて下さい」
まずは、突きから。足が滑りそうなので力が入らない。何度かバランスを崩して川の流れに足を取られて転倒する。これは武器を使うのも難儀だな。
次は蹴り。これはなんと言うか、川の中でする事じゃ無いな。デル以外上手く蹴れない。そりゃそうだ。流れる川の中で片足で立つと足元掬われる。
「腿をしっかり上げて、後ろの足で底を蹴りながら前に踏み込むようにすると上手くいきますよ」
デルのアドバイスで、なんとかみんな川中蹴りを放てるようになった。水の抵抗が激しく、いつもより汗かいてる気がする。けど、良かった。こういう練習しとかないと、もし、川の中で戦う事になってたら全く勝手がわからなかったな。
「ところで、なんで、デルって川の中でもいつも通りなの?」
髪までびしょ濡れのマイがデルに尋ねる。マイでさえ蹴りに失敗し、何度か水に浸かってる。
「それは、私たちエルフはどんな所でも戦えるように訓練してるからですよ。偉大なる森人格闘術の先人達のお陰です」
マジどれだけバトルジャンキーなんだよ。
「ではせっかくですので、ここら辺で組み手でもしましょうか。ザップさんお願いします」
あーあ、また僕ご指名か……
けど、今日は水中訓練。多分打撃じゃなく柔系の技が肝になるはず。力は僕が上。組み合ったら勝てるはず。
僕とデルは川の中で対峙する。足場が悪いから瞬間で距離を詰めるのは難しい。お互いにジリジリと近づく。作戦はデルの攻撃を食らいながらもしがみつきゼロレンジバトルに持ち込む。よし、もう少しで間合いに入る。一気に加速して距離を詰める。
シュバッ!
激しく水飛沫を上げながら、下から伸びるデルの足。まさか初撃で蹴りを放つとは。けど悪手だ。軽くスゥエーして躱す。視界は悪いがデルの居る場所は解る。ここから抱きついて水の中に引きずり込んでやる。
ガコッ!
何だ? デルがそのまま後ろに倒れ込んだかと思ったら顎に衝撃を感じて吹っ飛ばされた。覚えてるのはここまでだ……
「ザップ、ザップ大丈夫?」
「スミマセン。ザップさんが泳げないの忘れていました……」
僕を上からのぞき込んでいるマイとデル。ん、どうしたんだ?
「ザップ、デルの後方宙返りキックが綺麗に入ったのよ」
ああそうだったのか。一発目の蹴りと水飛沫は囮と目眩ましだったのか。さすがデル。恐るべし。
かくして、今年の初溺れは川だった。
心ゆくまで川での戦いを楽しみ、そしてそのあと河原でバーベキューして帰った。綺麗な景色の補正も入ってるからか、メッチャ美味しかった。海もいいが、川もいいものだ。また来よう。