熱中症
「まだまだ大丈夫だっ!」
なんかさっきからクラクラするが、これしきでへこたれたら沽券に関わる。僕は気合い一発ハンマーを振り上げ、ゴブリンの群れに飛び込む。
今日は王都の南西の草原でゴブリン退治の依頼を受けている。普段はゴブリンは夜行性で、昼は寝てるものなのだが、今ここにいる奴らは住み家をリザードマンに追われて王国に入って来ていて、寝る場所も無い。そして、今僕らに駆逐されてる訳だ。
メンバーは、僕、マイ、アン、導師ジブルの4人だ。ノノとオブはお留守番だ。お留守番と言うよりも実際は2人は戦闘では役立たずなので置いてきた。マイが何か仕事を与えて、家で家事に従事している。
それにしても暑い。せめて夜なら話は違ったと思う。まあ、けど、ゴブリンに夜戦は下策だ。奴らは夜目が効くから逃げられまくるだろう。
「ふう。正直ゴブリンより暑さの方が厄介だな」
「そうね。けど、ザップは良いわよ。腰巻きだけでも問題ないから」
マイは暑そうに手で自分をパタパタしている。自慢の猫耳もしんなりだ。
そう、僕は今、ミノタウロスの腰巻き一丁で、たまに収納から水を出して浴びたりしながら戦っている。そう言うマイもチューブトップにショートパンツとあんまり変わらないとは思うんだが。
「別にマイも俺と同じような格好でも問題無いと思うぞ」
今ここらにいるのは、僕らとゴブリンだけだ。僕の目が気にならないなら、好きな格好すればいい。
「ご主人様、マイ姉様の豆腐メンタルじゃ無理ですよ」
緑のワンピースを着たドラゴン娘アンがマイを煽る。間違い無い。こいつは今、幻の服、魔法で出来た見えるだけで存在しない服を着てるだけだ。要は実際は全裸だ。
「いいわね。ドラゴンは羞恥心が無くて」
マイはそう言うと、しゃがんで小石を拾って親指で弾く。過たずアンの胸に刺さる。
「ハウッ! 止めて下さい。敏感な所狙うのは……変態ですかっ!」
「変態は、あなたでしょ。せめて下着はつけなさい!」
いかん、暑さでマイの面がすわっている。それからも、マイの指弾がアンに襲いかかる。
「おいおい、遊んで無いで、仕事するぞ。ほら、あそこにも一団いる。行くぞ」
僕はハンマーを手に駆け出す。
『ザップ、ちゃんと水分は摂ってるのー?』
小さなスケルトンが魔法で言葉を運んでくる。導師ジブルだ。最近は暑さ対策でいつもスケルトンになってる。コイツも骨の時は羞恥心を克服したらしく、全裸だ。
「後で飲む」
僕は基本的には仕事の時にはあまり飲食はしない。トイレに行くのが嫌だからだ。さすがに戦い途中でもよおしたら地獄だ。
駆け出して、異変に気付く。なんか辺りが白っぽくなってきたと思ったら、まっすぐ走っていたはずなのに、地面に倒れていた。立ち上がろうとしても力が出ないで、僕に気付いたゴブリン共が嬌声を上げながら近づいてくる。
「グオッ、オウッ、ボブッ、ガッ」
ゴブリン共は思い思いに僕を攻撃する。地味に痛い。
「ああーっ! ザップ大丈夫?」
「ご主人様っ!」
マイとアンが駆け寄ってくる。僕はフラフラクラクラで立ち上がれない。程なくしてゴブリンは討伐されたが、アンがドサクサに紛れて僕を踏みつけたのには絶対に仕返ししてやる。
『ザップ、水飲むのよ』
「いや、喉は渇いてない」
『マイ、無理矢理でも飲ませるのよ』
「了解。アンちゃん、ザップの鼻を塞いで」
「らじゃー」
アンに鼻に指を突っ込まれて、口の前にマイが収納のポータルを出して大量に水が口に突っ込まれる。弱ってる僕には為す術がない。
「ガボパポパポボボボボッ」
死ぬ。僕はコイツらに殺されるのか?
大量に水を飲み込む。気管にも入り込みまくる。
「死ぬわ! ボケェ!」
なんとか立ち上がり、アンを投げ飛ばす。
『ザップ、元気になったでしょ』
ん、そう言うと、もう動けている。
『ザップ、熱中症になりかけてたのよ。私の適切な治療に感謝しなさい』
導師ジブルから声が流れてくる。
「感謝するか。もっとソフトに出来んのか!」
「良かった、ザップ、元気になって」
マイが駆け寄ってくる。悪気は無かったんだと思う。
「あと少しで、マイに溺れさせられる所だったけどな」
「え、あたしに溺れる?」
「いや、溺れさせられるだ」
「ご主人様、無事で良かったですね」
アンも戻ってくる。
「お前にブッ刺された鼻の穴が痛いけどな。お前にも同じ事してやる!」
逃げるアンを本気で追っかけたけど、まだ若干本調子じゃないので、逃げられた。
まあ、なんとか元気になったけど、今後は気をつけよう。しっかり水飲まないとな。熱中症になったら喉が渇くと思ってたんだが、一概にそうじゃないのは勉強になった。