至高のスイーツ
「マイ、なんだこれは?」
僕は食事の後にテーブルに出された物を怪訝に眺める。多分デザートだと思うが、それは見たことのないものだった。
子供の頃は、甘いものはそりゃ大好きだった。初めて飴玉を口にした時には、その美味しさに感動して涙したものだった。んー、思い出すと、美味すぎるものを口にするたび泣いてるような気がする。ジェントルマンとしていかがなものかと思うので、それは気をつけないとな。
まあ、だけど、大人になるに従って、甘いものをそこまで欲しないようになった。それよりちょっとなにか摘まみたい時には、炒り豆や、焼き鳥とか、マリネした魚や、煮こんだホルモンなど、お酒のつまみになるようなものを食べる事が増えた。残念ながら僕はお酒は弱いけれど。
『甘いモノなど、女子や子供の食べ物。大人の男が甘いモノ、甘いモノなんて言ってるのはちゃんちゃらおかしいぜー』
なんて、様々な事を加速された思考で瞬時に思いながら、マイから出された物体を眺める。
それはまるで山の上を切り取ったかのような形で、皿の上に立っている。優しい黄色の物体のその上の平な面には焦げ茶色の液体がかかっていて、甘い香ばしい薫りがする。少しの振動でプルプル動いて、まるでスライムのようだ。
ちなみに、今部屋にいるのは、僕、マイ、アン、幼女導師ジブルと、超絶美少女ハイエルフのノノと、ぽっちゃり少年のオブだ。みんな、マイの食べて良しの号令を今か今かと待ちわびている。
「これは、プリンよ。正式名称はカスタードプディングって言うわ。最近東方諸国連合でめっちゃ流行ってるものよ。それではいただきます」
「「「いただきます!」」」
まずは、奴をじっと見る。初めて食べるモノは初めて戦う魔物を前にしたのと同じような気持ちになる。気を引き締め、僕はそれをスプーンで掬って口に入れる。
「!!!」
なんだこりゃ!
プルプルツルツルしてて、滑らかで口の中で溶けて、甘くて濃厚。その暴力的な美味さに、僕の涙腺が叩きのめされる。駄目だ。さっき食べ物で泣かないって心に誓ったのに……
う、うまいぞー!!
僕は心の中でつい叫んでしまった……
「マイ姉様、お替わり、お替わりは?」
ドラゴン娘がマイに詰め寄る。
「はい、どーぞ」
マイが放った収納のポータルからアンの皿にプリンが投下される。それはプリンと波打って、刹那、アンが皿を持ち上げてスプーンで掬って食べ始める。なんと、アンが味わっている! なんでも丸呑みなのに、まるで慈しむかのように一口一口噛み締めている。奴の頬を伝う一筋の煌めき。僕は自分と同類がいる事に安堵する。
いかん、呆けている場合じゃない。僕は美味いものはゆっくり噛み締めるタイプだが、ここではそれは悪癖だ。急がないと、無くなる。ジブルはゆっくり小食だが、ノノとオブは底なしだ。けど、大の大人の男が甘味をお替わり? 格好悪い? しるかそんな事。僕はもったいないけどシャッシャとプリンを口にする。ノノとオブとジブル、アンとお替わりを貰っている。
「マイ、お替わりあるか?」
「え、もうないわよ。そんなに美味しかった? いつもザップ甘いモノいっぱい食べないじゃない」
「ハハハッ」
僕の口から漏れる乾いた笑い。プリン、プリンは美味すぎた。いっぱいいっぱい食べたい。
もうないのか……
いかん、なんか涙がまた出てきそうだ……
「しょうがないなザップ。今から作るから待ってて」
マイまじ神。僕は不覚にも目頭が熱くなった。
やっぱり、プリンは最高。最高すぎます。