初めてのぎゅー
「ザップはどこに居るか知らない?」
あたしお腹を押さえて悶絶している衛兵さんに尋ねる。やたら威丈高で会話にならないから、軽くボディブローをプレゼントした。
ザップは王城で、いけ好かない勇者って奴に切り伏せられ、あたしたちもソイツにやられて気を失い離れ離れになった。そしてあたしたちはつかまってた所から逃げ出した。
出会う人出会う人に同じように質問をしてきたけど、誰も良い答えをもたらしてくれなかった。そしてまた、駄目もとで、やたら弱そうな衛兵さんに聞いてみた。
「地下だ。地下室だ……」
衛兵さんはなんとか絞り出すように声を出す。大袈裟だなぁ、本当に手加減したのに。
それでもやっと手がかりを見つけた。急がないと。ザップはかなり酷い怪我をしてた。もしかしたらスキルを封じ込められていて、回復出来ないかも。衛兵さんに地下室の場所を教えて貰って急ぐ。アンちゃんが騒動を起こしているお陰か、誰にも会う事無く、地下へ降りる階段があるという建物についた。けど扉で閉ざされていて、当然鍵がかかっている。
「面倒くさい……」
つい思っている事が口をつく。あたしは問答無用で扉を蹴る。思いのほか簡単に開く。そして、あたしは駆け出す。
「ザップー!」
叫びながら無我夢中で走る。ザップ、無事でいて!
そして、幾つか階段を降り通路を走り抜ける。あたしは一定時間おきにザップを呼んでるから、気付いたら、なんらかのリアクションがあるはずだ。
ついにあたしが追い求めていた姿を見つける。
「ザップ、心配したんだよ、また置いていかれたかと思った……」
あたしは、ついザップにしがみつく。ザップの体がビクンとはね、そしてその太い腕で力強く抱きしめられる。良かった。ザップが無事で。今まで何度か寝てるザップに抱きついたけど、抱き返されたのは初めてだ。ザップの鼓動を全身に感じる。ザップがあたしを抱き締めている。もしかして、ザップもあたしの事を好きなのかな?
……そんな筈無いか。ザップがあたし如きを好きなはずが無い。
「大丈夫だ、無事でよかった」
あたしは更に強く抱き締める。このまま時間が止まればいいのにって、あたしは強く思った。
「心配かけたな、とりあえずここを出るか」
唐突にザップが両腕を伸ばして、優しくあたしをひきはがす。
「うん」
あたしたちは駆け出し、外に向かう階段を上る。
「どうやってここがわかった?」
「会う人会う人に聞いてみたの」
「よく教えてもらえたな」
「んー、軽く、たっ叩いたら、快く教えてくれたわ……」
ついつい本当の事を言ってしまう。人を手当たり次第に殴りまくったって事知られたら、さすがにザップでもドン引きかもしれない。
そしてあたしが蹴って開けた扉をくぐる。
「マイがやったのか?」
はい、あたしがやりました。少しやり過ぎたかも。
「へへっ、急いでたから」
つい笑って誤魔化してしまう。決してあたしが蹴りすぎたんじゃなく、建物が弱かったんだと思う。
そして、無人の詰め所つきの通路から扉をくぐって外に出る。
「そういえば、アンは?」
ザップの問いに、あたしはザップの後ろを指さす。
中庭には、大勢の兵士に囲まれた巨大な竜、本体に戻ったドラゴンのアンちゃんがそこにはいる。
「ウゲッ!」
ザップはめっちゃ驚いていた。けど、なにはともあれザップが無事で良かった。