秘呪を求めて
「ねぇ、これなんか良くない?」
マイが持ってきたのはオーガの討伐依頼。女の子なのに、なんか殺伐だなぁ。たまにはマイのお買い物にでも付き合って、もっと女の子らしい感性を育てるべきだろうか?
「これ、これっきゃないですよ」
アンが持ってきたのは森の奥に実っている珍しい果物の採取依頼。さすがアン食い意地がはっている。けど、コイツ解っているのだろうか? 果物を採取して納品する仕事で、決してアンがたべる訳じゃないのを。
「これなんかどう? 報酬も高いし面白そう」
ジブルもヒラヒラと依頼の紙を持ってくる。
まるで、バーゲンセールみたいだ。3人の女の子がワイワイしながら掲示板の依頼を漁っている。僕は3割引きとか半額とかのセールとかは興味が無いのだが、3人が3人共にそういうのが好物だ。もっとも依頼の金額が3割引きとか半額でセールされてても全く良いことないが。
今日は僕たちは用事があって魔道都市アウフに来たのだが、その用事が早く終わったので、そこの冒険者ギルドに来ている。なにかいい依頼がないかと探しているところだ。1日で解決出来そうで報酬が高いものという条件で。
どうもジブルが持ってきた依頼を受ける事になりそうだな。3人で依頼書を回し読みしている。アンが見てるのを後ろから読む。
『方法は問いません。秘呪を持ってる方から譲り受けて下さい。報酬は大金貨5枚』
「ん、秘呪ってなんだ?」
「秘呪っていうのは、秘せられた呪文。ざっくりと言うと、何らかの理由で世間に広まってない魔法の事よ」
ジブルの説明で解ったような解らなかつたような。
「と言う事は、アンの見えるけど存在しない服を作る魔法のようなものか?」
「まあ、そんな感じね。けど、秘呪には私も興味あるわ」
目をキラキラさせているジブルに押されて、僕らはその依頼を受ける事になった。
僕たちは依頼人の女性、ディアナさんと言う豪商の娘さんを訪ね、その秘呪を持っていると言う爺さんの家に向かう事になった。
「今日こそは、あなたが持ってる秘呪が封じ込まれたワンドを売ってもらえませんか?」
小柄でちょいぽちゃで愛嬌がある顔のディアナさんが、爺さんに頭を下げる。僕たちもそれに倣う。ちなみにここに来る前にどんな魔法なのかディアナさんに聞いたけど、女の子の悩みを解決する魔法だって濁された。その秘呪は失われた魔法で、今は再現出来ない肉体強化系の魔法で、そのワンドを使うと身に付ける事が出来るという。
「だから、誰にもアレは譲らんと決めたんじゃ」
「では、どうしたら、譲って貰えますか?」
爺さんはしばし目を瞑って考え込む。
「そうだな、パイパイ。ここにいる女の子全員のパイパイをつつかせて貰えたら、売ってもかまわんぞ」
パイパイ? あ、胸の事か。やべーな、頭大丈夫か? このエロ爺。
「はあー? 何言ってるの? お爺ちゃん!」
貼り付いた笑顔で前に出るマイを押しとどめる。怖ぇ、目だけ笑ってなかった。さすがに街中で殺人はヤバい。
「おい、爺さん。ふざけた事言ってるんだと、うちの女の子達が黙っちゃいないぜ。そうだ、勝負して俺らが負けたらその条件を飲もう」
「え、何言ってるのザップ?」
マイが鼻白む。
「私もそれは勘弁してほしいです」
ディアナさんは方法は問わないとか言ってたのに。
「私はザップも同じ事してくれるならいいわ」
ジブルは相変わらず斜めだ。
「ええーっ、ご主人様。今日は私、例の服しか着てないですよ」
まじか、という事は生。アンはマイに軽く叱られる。もっと甘やかさないようにしないとな、この裸族ドラゴンやつは。
僕はみんなと爺さんから距離を取って説得する。
「おいおい、あんな爺さんに、俺が何かで負けると思うか?」
「逆に頭をつかう勝負でザップ勝てると思うの?」
「おい、マイそりゃないだろ。けど、別にそういう時には誰か違う人が、その勝負が得意な人がやりゃいいだろ」
なんやかんや言い合ってなんとか説得できた。そして爺さんの所に戻る。
「いいのか? 約束じゃぞ、そうじゃな」
爺さんは腕を組んで考える。
「当然、わしの魔法を使わせて貰うぞ。勝負は早食いじゃ!」
え、なんだそりゃ? 秘呪なんて格好つけてるけど、早食いの魔法? 訳がわからない。
「ちょっと恥ずかしいけど、私は食べるのめっちゃ遅くて……今までの人生でみんなで食事に行った時とかに、周りに迷惑をかけて来たから克服したいの!」
ディアナさんがなんか言ってる。早食いの魔法に大枚をはたくなんて、金持ちの考えてる事は訳がわからない。
そして、僕らは食堂に移動し勝負する事になった。当然戦うのはうちのエースのアンだ。
「レディ、ゴー!」
マイがスタートの掛け声をかける。なんと料理は野菜ニンニク増し増しの大盛りとんこつ醤油ラーメン。それを爺さんは、爺さんしからぬスピードで食べていく。さすが魔法でドーピングしてるだけある。その顔は終始緩みっぱなしだ。勝負に勝つことを確信してるのだろう。爺さんはみるみる丼の中身を減らしていく。けど、アンは微動だにしない。
「お嬢ちゃん、ビックリして声も出んか?」
なんか爺さんが煽ってるけど。所詮そのスピードは人間の食事のスピードなのだよ。ドラゴンを舐めるなよ!
そして、爺さんのラーメンが8割方減った時にアンが動く。
「ずずずずずーっ」
その間約3秒。アンは一気にラーメンを汁ごと全て飲み干した。そして爺さんはそれを見てビックリして声も出なかった。
「しょうがないな。勝負は勝負じゃ。売ってやるよ」
爺さんが出したワンドをアンが受け取る。
「らくしょーっ!」
それを握ってアンは振り上げる。
「あ、発動した……」
ジブルが呟く。
「おおー。ご主人様。なんと、私、早食いの魔法を手に入れましたっ!」
それ、全くの無用の長物だろ。これ以上どうやったら食べるの早くなるんだ?
「手に入れましたっ! じゃないだろ。どういう事だ?」
「どうもそのワンドを振りかざす事がその魔道具を発動させる方法だったみたいね。しかもチャージは無くなったみたい」
ジブルが解説する。そのあとノノを呼んで、なんとかワンドを一回チャージ出来て、依頼は成功した。
けど、何か著しく不毛な時間だったな……