伝説の始まり
あたしの名前はマイ。最強の荷物持ちザップ・グッドフェローの片腕だ。
その最強の荷物持ちは、今、あたしの目の前でソファでお昼寝している。
寝顔は天使って言葉があるけど、ザップの寝顔は天使とは程遠い。白目を剥いてまるで悪鬼のような表情で寝ている。
しかも穏やかな顔になったと思うと、いつもまるでのこぎりをひくかのような歯ぎしりが始まる。どうやったら人間がこんな音を出せるのかしら? 何度か真似てみたけど、あたしには出来なかった。
こんな彼だけど、あたしはそんなところも好きだ。ザップにはもっともっと格好悪くなって欲しい。そしたら彼を好きになる女の子も減るはずだから。
あたしはザップの寝顔をじっと見つめる。こう見えてもザップって生きた伝説なのよね。その勲しを讃える英雄譚はあまねく広まり、魔王とも勇者とも称されている。
気が付くとあたしもその英雄に連なる者として名を広めている。ザップと出会ってからあたしの世界は変わった。
その1番の転機はいつだったのだろう?
あたしはザップと出会った時の事を思い出す……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ミノタウロス……本当にミノタウロスだわ。ザップ、戻りましょう。あんなの絶対無理よ!」
ここは『原始の迷宮』の最下層。薄暗い通路から頑丈な扉を開けると、そこは薄暗い小部屋だった。そこに佇む巨大な二足歩行の魔物。牛の角に牛の頭。の下には鋼のような筋肉に覆われた人間のような体。ミノタウロスだ。今、あたしたちの前にはミノタウロスがいる。その力は将に天災。討伐した者は漏れなく英雄と呼ばれる事になる。
無理、無理に決まっている。逃げなきゃ。あたしはザップのマントを引っ張る。
けど、ザップはゆっくりと自分のハンマーを指差す。
「これはなんだ?」
「あ、ミノタウロス王のハンマー!」
そうよ、ザップはミノタウロスの王を倒しているのよ。信じがたいけど、多分それは本当だ。あたしは掴んでいたマントを放す。
「ザップ、頑張ってね!」
あたしは微笑み、後ろに下がる。ザップはあたしを一瞥すると駆け出した。そしてハンマーをミノタウロスに振るう。
ガキィーーーン!
金属の擦れる音が迷宮に響く。
ミノタウロスは反応し斧でそれを受けるがそれを弾き飛ばす。
「え!」
ザップは意外そうな声を上げるとミノタウロスの頭にハンマーを打ち込んだ。そしてミノタウロスは倒れ動かなくなる。
え、もう倒したの?
「ウオオオオオオーッ!」
ザップは雄叫びを上げる。
「ザップ! 凄いわ、何て言うか、かっこよかった!」
「そうか……」
ザップはあたしから目を逸らす。照れてるのかなぁ?
そして先に進み、なんとそれからザップは3体のミノタウロスを2セット危うげも無く倒し、つぎはあまつさえ6体のミノタウロスでさえ倒してしまった。
そして開けた所に出て、ザップは口を開いた。
「これから、ここの敵を殲滅してくる。終わったら呼びにくる。絶対についてくるな。もし1時間位たっても俺が戻らなかったら、1人で地上に戻れ……」
ザップはあたしのリュックを出すと、その中の水筒に手から出した水を入れ、ヘルハウンドの肉も出してリュックに入れた。
もしかして、数日分のあたしの食糧?
「待ってよ、ザップ、お別れみたいだよ……」
あたしは必死に泣きそうになるのをこらえる。嫌だ。ザップと離れたくない。
「そうならないようにする。怪我したら、その水を使え。しばらくは回復効果がある」
ザップはあたしに背を向けるとを振り返らず進み始めた。
あたしは下がってザップを待つ。そうよね、ミノタウロスを相手にあたしが居たって全く役に立たない。ついて行ったって足手まといだ。
あたしは待つ。ザップが帰ってくるのを。けど、待てども待てどもザップは帰って来ない。
どれくらいの時間が経ったんだろうか?
けど、待つのは時間が経つのが遅く感じるから、もしかしたらあんまり時間は経って無いのかも知れない。
帰ろっかな……
地上に……
多分、ザップは何があっても大丈夫。だってあんなに強いんだから。ここから上の魔物は囲まれたりしない限り、上手くあしらえばやり過ごせると思う。
けど……
けど、あたしは……
気が付くと部屋の中に駆け出していた。無謀かもしれない。賢くないかもしれない。けど、もしかしたらザップは苦戦してるのかもしれない。あたしは、少しだけでもザップの力になりたい。
ザップに向かってあたしは走り続けた。
そして、それからザップ・グッドフェローとあたしの伝説が始まった。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。