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第九話 荷物持ちつきまとわれる


 僕は自分の格好を頭に思い浮かべる。


 ボロ布にしか見えないミノタウロスの腰巻きに、それと同様の腰巻きを転用したマント。坊主頭に無精髭、それに僕のお気に入りの刺のついた大人の頭位の大きさの鉄球に鉄の棒がついたハンマーを手にしている。

 

 客観的にみて、今の僕の容姿を一言で表すなら『バーバリアン』、未開の地の蛮族の戦士にしか見えないだろう。それか新種のモンスターか。


 部屋の中を見渡すと、頭の潰れたトロルの死骸と、冒険者と思われる者たちの死体。


 トロルの死骸の脇に青い液体を湛えた小瓶が落ちている。ドロップアイテムか。僕はその小瓶を拾い、口を開けると一気に飲み干す。微かな甘さが僕を癒やす。今の僕のささやかな楽しみだ。

 エリクサーより優れたポーションがあるはずは無いので、手に入れたポーションはことごとく飲んできた。基本的に飲みやすいようにか甘く出来ていて、僕を楽しませてくれた。青色、赤色、たまには銀色や金色もあり、金色が一番美味しかった。


 冒険者の死体を見る。埋葬してやりたい所だけど、このフロアにはそれに適した場所がない。どんなに落ちぶれても、追い剥ぎなど死者を冒涜する行為をする気はないので、軽く黙祷しこの場を後にする事にした。


「うぅん……」


 うめき声がする。そうだ、生存者がいたのだった。よく見るとまだ少女で町娘みたいな普通の格好だ。ガリガリに痩せていて、頭にネコ科の動物のような耳があり大きなリュックサックを背負っている。亜人の荷物持ちか……可哀想だが、今の僕は自分一人で生きて行くだけでやっとだ。僕は一瞥すると部屋を出た。


 今は地下30層、地上まではまだ相当ある。ここしばらくのフロアはトロルメインで食べ物になるものがない。早く地上に戻りたいところだけど、一旦食糧を補充するためにヘルハウンド狩りに下層に戻る事にする。


 僕は慎重に音を出来るだけたてないように歩く。強くはなったと思うが、油断して待ち伏せとかされたら一気に窮地に陥る。安全地帯と思われる所以外は何があっても気を抜かないようにしてる。


 コツン!


 石を蹴った音が後ろからする。見るとさっきの猫耳の荷物持ちが僕から距離をとってついて来ている。今から深層に行くのに足手まといにしかならない。


「ウガ! ガルルルルル!」


 後ろを向いて、獣じみた声を出し威嚇する。


「ヒッ!」


 少女は驚いて後ずさる。これでついては来ないだろう。少女は僕の事を、言葉を話せない知能の低い生物だと思ってくれたはずだ。


 しばらくたって後ろを見ると、遠くにまだ人影が見える。ついてきてるな。しょうがない、本気で追い払うか……


「グワアアアアッ!」


 僕は叫びながら駆け出し少女の方へ向かう。


 ゴンッ! ガッ! ドゴッ!


 少女のそばに着くと少女に当たらないように壁や地面を大きな音を立ててハンマーで叩いた。


「キャアーーーーーッ!」


 少女は驚いて尻もちをつく。


「グギャ! グギャ! グギャ!」


 僕はゴブリンをイメージして奇声を上げて、ひとしきり壁や床を叩くと、降りる階段目指して走り出した。


「待って下さい!」


 少女は走って僕を追っかけて来る。僕の事が怖くないのか?

 僕が逆の立場だったら一目散に逃げると思うがな。


 追いかけてくる足音がしなくなったので、何事かと後ろを振り返ると、荷物持ちの少女はしゃがんでいた。


 こけたのか?


 いや、彼女はこちらに背を向けていて、その奥に影が見える。


 トロルか!


 迂闊だった、さっきの騒ぎを聞きつけて来たのだろう。別に僕に彼女を助ける義理は無い。立ち去ろうと思ったが、気が付くと僕はハンマーを手に駆け出していた。そして彼女の隣を駆け抜ける。


 ドゴッ!


 一撃でトロルの頭を粉砕する。


 トロルが死んだ事を確認する。ドロップアイテムで青い小瓶が出た。さっき飲んだばかりなので、拾って少女に投げてやる。


 また、下層に向かって歩きだす。


 振り返ると少女がついて来ている。


 んー、どうするべきか?

 


 2023.8.24 少女が痩せてる事を追加しました。




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