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 初めての討伐(後編)


「ザップ! モンスターハウスよ!」


 あたしはあらん限りに声を張り上げる。そうか、他に魔物が居なかった訳だ。

 昔聞いた事がある。モンスターハウスと言われる現象を。迷宮ではランダムな場所に魔物がリポップするって言われているけど、ごく稀に迷宮の意思か偶然か一所にしか魔物が湧かない事がある。一部屋に沢山の魔物がいて高名な冒険者パーティーがそれによって崩壊したって聞いた事がある。モンスターハウスがあるフロアでは他の部屋でほぼ魔物がいないので、それで推測する事が出来るって聞いた事がある。なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。


「えっ、グフッ!」


 ザップが振り向いたと思ったら、あたしは衝撃に息を吐き出したながら吹っ飛ばされていた。ザップの馬鹿。手加減してよ。あたしは初めて宙を舞うって事を体験した。


 ザザーッ。


 あたしは背中から落ちて通路を滑る。一瞬息が詰まる。下手したらこれで死んじゃうわよ。あたしが身を起こすとザップに向かって幾つもの火の玉が向かっている。幾つかの火の玉は消え失せるけど、ザップに沢山の火の玉が命中し爆ぜる。多分、あたしの方に行かないように身を盾にしたんだと思う。


「ザーーーップ!!」


 あたしは叫ぶ。


 ゴオオオオオオオオゥッ!


 ザップを包む黒煙の中から幾条もの太い炎の帯が放たれる。そしてそこから現れる無傷のザップ。

 ザップが凄い炎の魔法を使えるのは知ってたけど、同時に幾つも放てるなんて……

 もしかして、ザップって勇者様なの? 攻撃と回復魔法をこんなに使いこなせる存在って勇者様しか居ないわよね?


「ゴホゴホッ」


 あたしはむせながら立ち上がる。あ、いつの間にか斧を手放してた。大事にするって言ってたのに。けど、放してなかったら怪我してたかも。


 ザップの手に巨大なハンマーが現れたかと思うと、彼は駆け出す。そしてまだ動くヘルハウンドを手当たり次第殴りたおす。けど、その後ろに一匹のヘルハウンドが迫っている。ザップは気付いていない。気が付くとあたしは駆け出していた。


「やあああーっ!」


 気合いを入れながら下から斧をぶん回しヘルハウンドに振るう。


 ガッ!


 命中したっ! けど、浅く切れただけでヘルハウンドは吹っ飛ばされる。空中で体を捻り着地したヘルハウンドはあたしを睨みつける。と思った時にはもう目の前にヘルハウンドがいる。その爪が振り上げられる。なんとか躱したけど、あたしに軽く擦る。速い。固い。強い。斧を振りあげる余裕はないので、力を入れ右から薙ぐ。軽く躱され、あたしは振るわれた爪をギリギリ躱す。


「あっ!」


 何かに強かに顔を殴られる。尻尾、まさか尻尾がこんな固いなんて……あたしは吹っ飛ばされて、即座に立ち上がる。口の中に鉄の味が広がる。良かった。斧は手放してない。駄目だこのままじゃ。斧を振り上げて降ろすがあたしの最大の攻撃だけど、そのモーションの大きさから動く敵に当てるのは難しいと思う。けど、薙ぐのでは軽く皮膚1枚切るような攻撃しか出来ない。ヘルハウンドに通じる攻撃が振り下ろししか無いと思える今、出来る事はそれしか無い。あたしは斧を真上に掲げる。ヘルハウンドは口を開けたかと思うと、あたしに向けて火の玉を吐き出す。それをギリギリ躱す。そして、奴はあたし目がけて口を開け近づいてくる。奴の視線はあたしの首元。一撃で頸動脈を噛みきる積もりだ。多分、あたしの攻撃は自分に通用しないと思ってるんだろう。近づくいてくるヘルハウンド。跳び上がりあたしに近づく顎。まだだ、まだ引きつけないと最大攻撃力を発揮できない。今だ! あたしは斜め前に出ながらヘルハウンドの横に進むと、全体重、全力を込めて斧を振り下ろす。何度も何度もやった動き。何匹ものヘルハウンドの首を刈った動きだ。


 ザンッ!


 あたしの渾身の一撃はものの見事にヘルハウンドの首を断ち落とした。


 肩で息をつきザップの方を見ると、丁度こちらに向かってる。あたしは斧を置いて駆け寄る。


「ザップ! 無事なのね! よかった!」


 あたしは胸をなで下ろす。


 ザップの視線があたしが倒したヘルハウンドに向く。


「やったわ! あたし一人で!」


 そうよ、あたしがヘルハウンドを倒したのよ。けど、もう駄目。力がでない。あたしは力が抜けて座り込む。


 ザップがあたしの頭の上に手をかざす。水が降り注いだと思ったら、顔とかの痛みが引いていく。しかもその水はすぐに乾いていく。これって何の魔法なのかな?


「よくやった」


 そのままザップがあたしの頭を撫でる。たまに耳に触れるのがこそばゆい。


 やった。あたしが1人で魔物をやっつけたんだ。けど、これもザップのお陰。沢山の魔物の首を刎ねてなかったら倒せなかった。


 あたしの頭を優しくなでてくれる、ザップの大っきな手はとっても暖かかった。


読んでいただきありがとうございます。


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