初めてのお城
「それでは、私についてきて下さい」
あたしたちは乗ってきた馬車からおろされて、神官のババさんに出迎えられた。すっごい綺麗な馬車だった。あたしの人生でこれまで揺れない馬車に乗ったのは初めてだった。もう少しだけ乗っていたい気もするけど、それよりもお城、お城に初めて入るのよ。城下町から見上げる事しか出来なかったお城。そこに入ることは今までもこれからもずっと無いと思っていた。あたしとは違う世界だと。
あたしの名前はマイ。多分冒険者だ。野人だったザップと、ドラゴンが変身した女の子アンちゃんと迷宮で戦って戦って戦い続けた。自慢じゃないけど、かなり強くなれたと思う。街に向かう途中でザップが王子様を助けた事でお城で報酬を受け取る事になった。
あたしたちはさらに城門をくぐり大きな中庭に出た。道が奥まで続いていて、それを挟むように大っきな石像が並んでいる。これ、誰かが作ったと思うと凄いと思う。何人の人が何日かかって作ったんだろう?
「いやー、大きい石像ですね」
ドラゴン娘のアンちゃんが石像を見上げて訳が解らない事を言っている。この娘がドラゴンに戻ったら、石像が猫、アンちゃんが人間くらいの大きさの差があるのに。
「アンちゃん、本気で言ってるの?」
ついつい、あたしの口から言葉が漏れる。
「いえ、冗談ですよ、この大きさなら一噛みですね、一噛み」
え、アンちゃんって石像を噛み砕けるの?
「ドラゴンって岩を食べるの?」
もしそうなら、食費が低くなるわ。
「食べはしないですよ、歯を磨くのに使うのですよ。こう見えてもわたくしレディーですので、身だしなみには気を付けてるのですよ」
そうなのね。ドラゴンって岩を噛んで歯磨いてるのね。
「アン、まず人間のレディーは歯磨きに岩や石を使わないからな、それに身だしなみに気を付けるのなら、今後は常に服を着ろ」
あたしは、アンちゃんがそこらの石を拾って口に入れるのを想像する。うん、試しだ。そんなことされたら、あたしが恥ずかしい。
「嫌だなー、ご主人様、冗談、冗談ですよ」
アンちゃんの目が泳いでいる。あたしがしっかり見とかないとこの娘は何するか解らないわね。
「アン、しばらく所作振る舞いはマイの真似をしろ。マイ、しっかり行儀を教えてやってくれ」
「わかったわ、ザップ、任せて」
あたしはザップに親指をあげる。これってザップの癖があたしにもうつったものだ。
「えー、マイ姉様の真似するんですか?私もご主人様の寝てる姿を凝視したり、一緒に寝てたぼろ布の臭いかいだり、使った食器を舐めたりしないといけないのですか?」
「アンちゃん、変な事言わないで!そこまではしてないわ!」
何言ってるのよ。確かに寝てるザップを見るのはあたしの密かな楽しみだし、ザップの寝てた布を嗅いだ事もある。それは、ザップの臭いってとっても落ち着くのよね。けど、気をつけないと、あたし、見られてたのね……
けど、さすがに使った食器を舐めはしない。嗅いだ事はあるけど……
「詳しく聞きたい所だが話はここまでにしとこう。ババさんも笑ってるぞ」
言われて見ると、ババさんの肩が震えている。そんなに面白い事言った積もりないけど。
あたしたちは大きな扉をくぐり城内に入る。自然と胸の鼓動が早くなる。
見た事のないような綺麗な絵や、装飾品に彩られた通路をあたしたちは歩いていく。昨日は、とっても綺麗なドレスを着たし、あたしの世界が変わっていく。なんか貴族になったみたい。アンちゃんもだけど、あたしも色々勉強しないと。ザップに恥をかかせないように。
それと、何よりも、ザップ……
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