王都での思い出
あたしの名前はマイ。猫耳の荷物持ちだ。あたしたちは迷宮を出たあと、東の村でゴブリンの軍団を退治して、次は襲われてた王子様を助けて王都に向かった。
そして、王都の城門をくぐる時問題が発生した。あたしたちは荷台に乗ってたのだけど、行列待ちに飽きて寝ているザップを見て衛兵が騒ぎ出した。どうもザップが蛮族の戦闘奴隷なのではとの事だ。王都には詳しくは知らないけど、奴隷が存在する。その多くは犯罪者や、戦争で連れて来られた者だと言う。普通の奴隷は通行税を払ったら王都に入れる事は出来るけど、蛮族の戦闘奴隷だけは禁止との事だ。彼らは一度逆上すると、死ぬまで戦い続けるそうで、今まで何度か街にかなりの被害を出したそうだ。それによって今は一切通行禁止だそうだ。けど、しょうが無いわね。ザップは乱雑に伸びた髪と髭に汚い皮のマントと腰巻きだけ。当然パンツも穿いてない。正直あたしはここまで恵まれてない恰好をした人を見た事が無い。門に着く前に王子様に何か洋服を借りとけば良かった。
「おい、起きろ」
2人組の衛兵の1人が槍の尖ってない方でザップをつつく。ひどいわ。ザップ怒らなければいいけど。当然不愉快そうにザップは目を覚ます。
「ザップ、ポルトの身分証で通行許可はおりたんだけど、ザップがご禁制の蛮族の戦闘奴隷じゃないかって事で疑われてるのよ」
あたしが説明すると、怪訝そうな目であたしたちを見る。ザップはどうやってここを切り抜けるのかしら。期待に胸が躍る。ついお耳も動いてしまう。
「蛮族の戦闘奴隷?」
ザップは目を擦って衛兵を見る。
「お、意外と流暢に喋るな、おいお前、名前を言ってみろ」
衛兵の一人が横柄にザップに話しかける。
「ん、俺の名前は、ザップ・グッドフェローだ」
ザップは低い声で答える。
「名前は蛮族っぽいし、言葉は滑舌が悪くて聞き取りにくいし微妙ですね」
もう一人の衛兵が口を開く。そうなのよね、ザップってモゴモゴ言ってて聞き取りにくい事もあるのよね。
「余計なお世話だ!」
ツッコミは早くて滑舌も良かった。アンちゃんによくツッコんでるからだよね。
「あ、今の話し方いいですね、それでしたら文明人っぽいですよ。まあ王族の関係者の馬車なので通しますけど、これはそのぼろ布を脱いで頭にずだ袋を被せるか、全身見えないようにずだ袋に入れるかしないとここで置いていってもらいますよ、このまま持っていったら道々で検問にあいますよ」
「お前、人を物扱いするなよ」
「あ、すみません、つい奴隷と勘違いしてしまいますね」
「もういいよ奴隷で……」
「すまんなザップ、奴隷なら別に金がいる。今はその金がないんだ。衛兵、頭に被るずだ袋持ってきてくれ」
王子様も笑いをこらえながら言う。ということは、裸に頭にずだ袋? たしかにボロ布を脱いで顔を隠したら蛮族には見えないと思う。けど、変態にしか見えなくなると思うわ。
「まて、俺はこの皮しか着てない。これを脱いだらまた別の意味で検問にひっかかるんじゃないか?」
あたしもそう思う。
「手間がかかる奴だな、衛兵、でかい袋もってきてくれ、それとガイル、城に行く前に屋敷に寄るぞ」
ザップはしぶしぶと大っきなずだ袋にはいっていく。上はキュッと締めて後でとれやすいように結んであげた。ちょっと袋詰めは可哀相だけど、あんな恰好で王都に入る事が出来たので上々だと思うわ。
「おい、ザップついたぞ」
王子様がザップに声をかける。あたしたちは暇潰しにザップをツンツンしてるのを止める。つつくたびにクニョクニョ動いて面白かった。
袋を開けて上げるとザップはあたしたちを凝視する。あたしとアンちゃんは咄嗟に目を逸らす。もしかして怒ってる? ザップはあたしたちの頭をワシャワシャする。耳も触られてくすぐったい。
馬車から降りると、大きな屋敷の前だった。こんなところに来るのは初めてなので足が竦む。本当に本当に、ザップと出会ってから驚きの連続だ。明らかにあたしの世界が変わって行ってる。
「ザップついてこい」
あたしたちは王子様に促されて屋敷に入る。
中に入ると吹き抜けの階段がある大広間で、天井にはキラキラしたシャンデリアが幾つも下がっている。沢山の人達が二列に並んでいる。あたしはつい圧倒され体が強張る。
「「「お帰りなさいませ」」」
あたしはビクンと跳ねそうになる。みんな綺麗に同時に深々と頭を下げる。正直、舞い上がってどうしたらいいか解らない。とりあえず、あたしも頭を下げる。
「彼らを湯浴みさせて新しい服に着替えさせろ。俺の命の恩人だ粗相がないようにな」
「「「承知いたしました」」」
王子様の声にまたみんな頭を下げる。心臓がバクバクする。みんなの視線があたしたちに集まる。けど、軽蔑とかは感じない。あたしは耳のおかげで馬鹿にされる事が多かったからよくわかる。やっぱり王子様っていい人なんだろう。ここにいる人達っていい人ばっかりなんだと思う。
ザップはおじさんに、あたしとアンちゃんはメイド服のお姉さんに着いてくるように言われる。ちょっとザップと別れるのに抵抗を感じるけど、湯浴みって多分お風呂よね。ならしょうが無いわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あなたは誰なの? あたしのザップを返して!」
あたしの目の前にいるのは間違いなくザップ。けど、もう見た目は別人だ。髪は整えられて後ろに撫でつけられて、髭も綺麗に剃っている。タキシードに身を包み、筋肉質な体のせいか、服に負けてない。とっても似合ってて格好いい。けど、なんかあたしを助けてくれた、汚い恰好のザップが居なくなってしまったみたいで少しだけ寂しい気もする。あたしはちなみに真っ赤なドレスに身をつつんでいる。軽くお化粧してもらって、髪の毛も綺麗に整えられている。当然、ドレスなんて着るのは初めて。背中のところが大きく空いてて恥ずかしい。けど、鏡で見たあたしは自分じゃないくらい綺麗だった。ザップ、あたしを褒めてくれないかなぁ?
「誰がいつからお前のものになった、それに俺はザップだ! 正真正銘ザップだよ!」
「ご主人様、とっても似合ってますね、二十才位若返ったみたいですね」
それは言い過ぎだけど、実際あたしも驚いた。ザップはおっさんだと思ってたけど、実際は結構若いのかもしれないわ。
「二十才若返ったら子供になるわ!」
「えっ、ご主人様、今何歳なんですか?」
アンちゃんはブルーの沢山のお花がついた可憐なドレスに身をつつんでいる。まるで妖精さんみたい。けど、ザップ、あたしはチラッとしか見なかったのに、アンちゃんはジロジロ見てる……
「けど、なんかつまんないわ、やっぱりザップは猿人間の方がいいわ」
つい、思っても無い事が口を出る。
「ご主人様、ここを出たらまたいつものスタイルに戻すのですよね?」
「お前らな、誰が好き好んで裸同然で生活すると思うんだ。やむなくあんな格好してただけだ」
「え、ザップは趣味であんな格好してたかと思った。村でも服欲しがってなかったし」
「解った、そんなにミノタウロスの腰巻きが好きなら、お前らにやるよ、この後あれを着て生活しろ、結構楽しいぞ」
ザップは収納から腰巻きをだす。あたしがそれだけ着てる姿を想像する。無理。絶対無理。
「嫌よ」
「嫌でーす」
アンちゃんも嫌なのね。
「ほら、嫌だろ」
「ザップ様、主がお呼びです」
執事さんの声がする。そしてそれからもあたしにとって初めての事が沢山待っていた。けど、それよりも、ザップが小声で言った、「似合ってるな」の一言が1番あたしは嬉しかった!
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