初めてのプレゼント
「ねぇ、ザップ?」
あたしは勇気を出してザップに話しかける。彼は地べたに座って、あたしの頭以上の大きさのでっかい刺つきの玉を磨いている。しかも愛情たっぷりに。なんか悔しい。目の前にはあたしという女の子がいるのに、彼は全く興味なさげだわ。もしかしてザップって女の子より武器の方が好きなウェポンフェチって言うやつかしら。そういえば、そう言う変わった人が冒険者にはいるって聞いた事があるわ。
あたしの名前はマイ。あたしは冒険者の荷物持ちとしてこの迷宮にきたのだけど、悲しい事にあたしを雇ってたパーティーは全滅してしまった。そこでザップに助けられて、彼はあたしを追っ払おうとしてたけど、なんとか食事を振る舞う事で同行を許して貰えた。これって確か『胃袋を掴む』ってやつよね。そういえば、おばさんが言ってたわ。意中の男を掴みたいなら、胃袋をがっちり掴んで離さない事よって。おばさんありがとう。マイは意中の人ではないと思うけど、命の恩人の胃袋を掴めたみたい。これからはがっちり離さないわ!
あたしたちは迷宮を下って、今は広めの部屋にいる。数えたところ、今いるのは地下39層。あたしは地上に帰りたいのに、なぜかザップは下に向かう。なんとか説得して上に向かいたい。
「ザップのスキルって、魔物よけと階段探知なの? そういうレアスキルがあるって聞いた事があるわ」
あたしたちは今まで1回も魔物と遭遇してない。それにザップは迷う事無く下への階段を見つけている。
あたしは緊張で耳が震えてしまう。言葉を選ばないと、ザップを不機嫌にしたら置いて行かれるかもしれないわ。
「……違う」
あ、なんかザップ、不機嫌そう。
「え、じゃ、どうして敵がいないの? あと、ここって39層よね、ここ数年での最深記録ってここよね。フロアボスがボストロルで強すぎて誰も進めないって聞いたわ」
さすがにボストロルの名前を聞いたらザップも引き返すわよね。
ザップは険しい顔で考え込んでるみたい。そうよね、引き返すわよね。
「武器は使えるか?」
え、武器? 一応あたしは護身用に短剣はもっている。魔物とは戦えないけど、普通の人相手なら身を守るくらいは出来る。
「短剣を一応もってるわ」
ザップはがっかりしたように視線を落とすと巨大なハンマーを置いて立ち上がる。そして、空中から武器を出して、床に並べ始める。巨大な斧、巨大なハンマー、巨大なモーニングスター。凄い、ザップの収納ってどれくらい物が入るんだろう。けど、たくさん武器持ってるのね。やっぱり武器フェチってやつなのね。そして、ザップは無言でそれらを指差す。え、どれか使えって事? あたしはその中では一番軽そうな斧に手を伸ばす。
「あたしは、荷物持ちで力持ちなのに……」
重い、めっちゃ重い。重すぎるわ。腰が砕けそう。なんとか両手で斧を持ち上げる事は出来たけど、バランスを崩して落としそうになる。これは使えないわ。
だけど、そんなあたしをザップは頷きながら満足そうに見ている。なんなのよ? 一体?
ザップが手を伸ばすと斧は消える。収納にしまったの?
「十分だ。これを羽織れ」
ザップがあたしに何で出来てるか解らない汚い皮みたいなものを差し出す。あ、これってザップの服と同じものよね。あたしはなんか嬉しくなってすぐにそれを首に巻く。うん、マント代わりに丁度いいわ。なんか温かい感じがする。
「お揃いね!」
なんかとっても嬉しくて耳がピコピコする。だって、初めてなのよ。男の人からプレゼント貰ったの。
「行くぞ」
ザップは背を向けて歩き出す。
「え、階段? フロアボスは?」
「倒した」
「エエエエッ!」
えー、ボストロルを倒したの? という事はザップって……
それからあたしたちは更に階段を下り始めた。あたしはギュッとマントに包まる。自然と笑みがこぼれてしまう。
第一部『第十二話 荷物持ちプレゼントする』からです。下にリンクを張ってますのでぜひどーぞ。
https://ncode.syosetu.com/n8450gq/12/
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