虎になった荷物持ち
あたしの名前はマイ。最強の荷物持ちザップ・グッドフェローの右腕から、もっと進んだ関係になりたい者だ。
けど、今晩はまた失敗してしまった。今日はしっかり稼いだので、それを祝してプチ宴会をしてる所だ。上手くザップ以外はお酒で潰れて寝てしまったんだけど、ザップもお酒を飲みすぎてキャラが変わっている。こうなったらしばらくするとザップはぐっすり寝て起きない生き物になる。
「ズガン、ズガン、ドコン! 俺のハンマーが火を吹いて、ドラゴン共は地に伏せた訳よ!」
ザップはオーバーアクションつきで武勇伝を披露している。いっつも酔ったらこうだ。
「うわ、ザップさんすっごーい」
「もっと聞かせてほしいわ」
ザップにメイド服のケイとパイがしなだれかかっている。彼女たちも酔ってるわね。ここはどこのキャバクラかしら。
ザップ、お酒に弱すぎるわよ。今日飲んだのはエール2杯だけなのに……
そういえば、初めてザップとお酒飲んだ時もそうだったわね……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あたし達は迷宮から出て初めて行った村を後にして、出会った冒険者のパーティーと焚き火を囲んでいる。
「こちらが、俺たちの依頼主のガイルさんだ。旅の商人をされている。こっちは武闘家のチェーンと魔法使いのフェルトと神官のババだ」
パーティーのリーダーのポルトさんが仲間を紹介した。
それに対して、ザップもあたしたちを含め自己紹介した。
「ババさんはババァだからババなのですか?」
アンちゃんが、神官のババさんに失礼極まりない事を言う。けど、あたしは噴き出しそうになる。実はあたしも少しそう思っていた。
「あのね、名前がババなのよ、ババァじゃないわまだ35才よ」
ババさんが額に青筋を立てながらやんわりという。でも、35才はさば読み過ぎだと思うわ。どう見ても50才前後だと思う。
「すまない、アンは長い間、人と接していなかったから配慮が足りないんだ」
ザップが頭を下げる。ザップって格好の割には意外に常識人なのよね。
「まあ気にすんな。酒だ、これでも飲め」
武闘家のチェーンさんがザップに金属の水筒を差し出す。
「ありがとう。いただくよ」
ザップは水筒を口にあて、グビッと飲みむ。さすがザップ。見た目がワイルドなだけじゃなくて、お酒もいけるのね。と思ってた時があたしにもありました……
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「てなかんじで、俺様は秒殺でドラゴンのアンにびびったゴブリンどもを叩き潰してやったわけよ! 俺様を泣いて讃える『ダンスマカブル』の連中には二度と悪さするなよって言って許してやって、あとは村に戻って村の連中に『報酬はお前らの笑顔だ』って言ってやって、貧しい者たちからは何も貰わずに来たって訳だ! 格好いいだろ! 最高だろ!」
ザップからはいつものクールさは消え失せて、オラオラ系のキャラで武勇伝を語りまくる。一人称が『俺』から『俺様』に変わってるわ。けど、本当の話しなの? ザップが自分の事を語るのは初めてだけど、それが本当なら悲惨すぎる……
「マイさん、ザップ君って酒を飲んだらいつもこうなのか?」
ポルトさんがあたしに小声で話かけてくる。
「ザップがお酒飲むの初めて見たからわかんないわ。ごめんなさい。今後は飲ませないようにするわ」
あたしも小声で話す。まさか、ここまでザップがお酒に弱くて酒乱なんて……
「なにしてんだぁ? ポルト! 俺様のマイには手を出すなよ!」
え、ザップ、今なんて言ったの?
「俺様のマイ! 俺様のマイ!」
あたしはザップの言葉を反芻する。体が熱くなってくる。
「ザップ君は、『ゴールデンウィンド』の荷物持ちだったのか、けど、面白い作り話だな、特にアンちゃんがドラゴンって言うのが面白いな」
ポルトさんは、今度はアンに話しかける。
「おいポルト! 俺様のアンに手を出すなよ!」
「えー! まさかアンと同レベル……ザップのばかぁ!」
あたしは軽くはたいた積もりが、ザップの首筋に上手く入って悶絶してる。あ、やり過ぎたかも……
この後もザップはしばらくウザい絡みを続けると、パタンと死んだように眠ってしまった……
……ザップのばか……
……少し期待してたのに……
第一部『第五十七話 荷物持ち焚き火を囲む』からです。お酒はほどほどにですね。下にリンクを張ってますのでよかったら行って見て下さい。
https://ncode.syosetu.com/n8450gq/57/
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