雨忍者
やっぱ、やまねーな。
僕は頭上に荷物持ち傘を展開しながら石畳の道を歩く。荷物持ち傘、ただ頭の上に収納ポータルを出して上から落ちてくる物を入れる事で雨を防いでいる。ここ数日雨が続き、今日は僕が買い出しに出ていた所だ。どんよりとした薄暗い空を眺める。
シュン。
危なっ。何か解らないけど飛んで来たものを避ける。それは石畳を爆ぜさせ穴を穿った。何だ? 黒い金属片、確かあれは苦無。忍者が使ってる武器だ。
「……シルメイス……」
抑揚ががない声、これは忍者ピオン。何故彼女が僕を襲う? 力試しか? それにしては殺しにきてるような。空気が張り詰めた感じがする。強力な魔法が発動したのを感じる。姿は見えないがピオンが発動したのは古竜魔法『シルメイス』。水を操る魔法だ。辺りの雨水が盛り上がり、数体の人の形を作る。多分、人の形だと思う。残念な事に手足の長さがちがったり、頭がでかかったり小っささかったり、幼児の落書きみたいだ。多分ピオンはお絵かきとか造形とかは苦手なんだろう。素晴らしい魔法なのに勿体ない。その人型が僕に襲いかかってくる。見た目の割には素早く動く水人達の手にはいつのまにか苦無があり、僕に斬りつけてくる。かわして殴りつけるが、すり抜けるだけだ。しょうがないな。苦無ごと水人たちを収納に入れる。瞬殺だ。
「ピオン、なんのつもりだ。出て来い」
ピチャン、ピチャン、ピチャン。
水音まじりの足音を立てながら、目の前に忍者ピオンが現れる。メイド服ですぶ濡れだ。素晴らしいプロポーションの体にブラウスが貼り付いていて少しエロい。
「さすが、ザップ。けど、死んで貰う」
ピオンは左手の苦無でゆっくり突き出した右手首を切りつける。そこからポタポタと溢れる血液は地に落ちる事無く螺旋を描き集まり剣の形を成した。その血の剣を逆手に構え、ピオンは腰を落とす。
「行くぞ」
ピオンは僕に駆け寄ると剣を水平に振るう。咄嗟にハンマーを出して受けるがハンマーをすり抜け僕の胸を切り裂く。血の剣を収納に入れようとするが発動しない。生き物認定なのか。良い切れ味だけど、大した事は無いな。僕は間合いを取り、ハンマーを引き絞る。
おかしいよな。何故ピオンは真っ向勝負を仕掛けてきているのか? 確かに水を操るのは脅威であるけど、僕を倒すには至らない。何らかの事情があるにしても、ピオンは本気だ。それならもっとピオンなら嫌らしい方法を取るはずだ。まずは、あの役立たずだった水人は無駄でしかない。本当に無駄だったのか? 多分解った。
僕は速度重視で踏み込みピオンに水平の一撃を放つ。ピオンは血の剣で受けるが全く効果的無くピオンの腹にハンマーが刺さる思った通り全く手応えが無い。即座に振り返ると、飛んで来たピオン。その右手が振るわれるのを身を反らしながら左手で受けるが腕は切り飛ばされる。振り向きざま放ったジャブがピオンの腹に刺さる。まるで手がピオンの背中まで貫いたかのような感触。ピオンは攻撃を全く予測してなかったから筋肉に全く力が入っていなかったからだ。僕の左手が宙を舞い、ピオンは吹っ飛ばされていく。なんか、僕ってよく腕を切り飛ばされるな。めっちゃ痛々しいんだよ。ピオンが動かないのを確認して腕と胸をエリクサーで癒やす。
さっきのは空蝉の術ってやつだな。メイド服のピオンは服だけになっている。めっちゃ下手っぴな水人を見せて水で作れるのはこんなものと思わせて、実際は本物と区別がつかない水のピオンを作ってた訳だ。そして本物のピオンは僕が攻撃する瞬間を狙って首を刎ねようとした訳だ。あぶねー。ピオンの下に行き傷を癒やす。ピオンは下着姿だ。収納からマントを出してかけてやる。そして、ピオンは目を覚ました。
「ザップ、すまない。操られた。相手は解らない」
ピオンは身を起こし頭を下げる。いつものピオンだ。
「大丈夫だ」
僕は手を伸ばしてピオンを立ち上がらせる。そしてピオンの服を回収して荷物持ち傘を出してピオンを店まで送って行った。
ピオンを操れる程の術者? 思い浮かばない。けど、いろんな所で恨みをかってるから思い当たる節がありすぎる。まあ、かかってきても返り討ちにしてやるだけだ。
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