初めてのステーキ
あたしの前で、家の家族がステーキをがっついている。ついつい幸せを感じてしまう。
あたしの名前はマイ。最強の荷物持ち、ザップ・グッドフェローの自称右腕だ。
「ありがとう、マイ、美味しかった」
ザップが微笑む。美味しいって言って貰えて良かった。
ステーキを焼くと、ザップと初めて食べたステーキを思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうやってお肉を焼くかよね」
あたしは考える。あたしがもっている調理器具は小鍋だけ。これでなんとかお肉を焼く事は出来るけど、火力が足りないわ。薄い鍋底はすぐ冷えるから焼き肉ならまだしもステーキはね。せっかくだからザップにはステーキを食べさせたい。
「斧を火球で焼いて、その上で焼くのはどうか?」
ザップがぶっとんだ発言をする。武器でお肉を焼くなんて聞いた事がない。けど、熱した鉄板なら上手く焼けそうだ。
「それしか無いわね。ザップ、まずはお肉と脂身を出して」
あたしが処理したケルベロスのロースとと脂身をザップが出す。ほのかに温かい。もしかして、ザップの収納って経時劣化しないやつなの? そんな訳ないか。
あたしはまな板を出して肉を薄目で大きく切る。ロースの脂身との間の筋にナイフで切れ込みを入れる。これでさらに柔らかくなるわ。
そして肉に塩をかける。こぼさないようにしないとこれは貴重な塩だから。前のパーティーの所持品だけど。
「それ、なんだ?」
「塩よ。しかも山で採れた塩をすりつぶしたものよ」
「そうか」
ザップは頷くと、刃が厚い斧を取り出して噴水に立てかける。
「え、それって、あたしの斧?」
なんかあたしの愛用の斧を調理器具として使うのは気が引ける。
「違う、あれより切れないやつだ」
え、ザップって服はもってないのに幾つ武器をもってるんだろう。予備の武器より服の方があたしは大事だと思うけど。
「少しどいてろ」
あたしが下がると、ザップは斧に手から出した火球をぶつける。一瞬にして斧が温まって白煙が出る。後ろにはあたし達の大事な噴水があるのに大雑把だわ。
あたしは鉄の箸で斧に脂身を擦り付ける。いい温度だわ。肉を押しつけるように斧の上に置く。
ジューッ!
美味しそうな匂いのが立ちこめる。鉄板が斜めだから箸で押さえとかないといけないから熱い。けど、ザップのために我慢。お肉をすぐに裏返して、焼けてるのを確認してから斧から離す、そして、切り口の焼けてない面を斧に擦り付けて焼く。それを繰り返して、ザップに火球の補充を頼んだりしながら、準備した肉を全て焼いちゃった。今日は奮発しよ。お肉が落ち着くのを待って肉を削ぐようにまな板の上でカットする。いいかんじ。血は出てないわ。
「ゴクリッ!」
ザップが喉を鳴らす。待ちきれないのかしら。
あたしは切った肉を皿に並べて、オリーブオイルと塩と黒胡椒、そしてパセリを乾燥させたのを肉にかける。
「完成よ。さあ召し上がれ」
リュックを裏返して食卓代わりにする。
「「いただきます」」
あたしたちは手を合わせる。ザップとケルベロスに感謝する。
まずはザップがナイフとフォークで肉を口に含む。
ザップはお肉を口にすると、滂沱と涙を流し始めた。どうしたの?
ザップは咀嚼しながら涙を流しつづけた。そして、無言でどんどんお肉を口にする。なんか、ガヅガツご飯を食べるのって見てて気持ちいい。
あたしもステーキを口にする。え、美味しい。あたしが今まで食べたどんなお肉より美味しい。勿体なかったかも。これって多分めっちゃ高い値段で売れる。それもそうよね、今までケルベロスを討伐したって話聞いた事も無いし、それを食べた事なんて王侯貴族でも無いんじゃないかしら? けど、お肉は脂少なめだったからレアで正解だったと思う。多分ウェルダンだったら硬くなりすぎそう。
あたしたちは即座にペロリと平らげた。ちょっとはしたなかったかも……
「ごちそうさまでした。ありがとう」
ザップはいきなりあたしに土下座する。ええええーっ、ご飯くらいでなんで? おかしいわ、あたしもなんか目が潤んでくる。
「ザップ。頭を上げて、あたしこそありがとう。こんなに喜んでくれて」
少し歪んだ視界に映るザップの瞳はとっても力強く感じた。
これからもあたしはザップのためにずっと美味しいものを作ってみせる。
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