師弟対決
「それでは、今から組み手を行いたいと思います」
エルフの麗人デルが声を張る。
今日はデル先生の格闘技講座。最近は雨が多いのだが、今日は晴れているので、いつもの荒野で行う事になった。一応マイが街の道場を押さえていたみたいだけど。
メンバーはいつメン。僕、マイ、ドラゴンの化身のアン、王都最強の名を冠している冒険者パーティー『地獄の愚者』のメンバー、自称死霊術士のマッスルダークエルフのレリーフ、自称吟遊詩人の子供族のパムの合わせて5人だ。
まずは準備運動、そして柔軟体操を経て突き蹴りの基本練習。最近はそのあと模擬戦のような組み手をする事が多く、今日もそうなるみたいだ。
今日は誰と戦おうかななんて考えていると、レリーフが手を挙げた。
「デル先生、本日は胸を借りてもよろしいでしょうか?」
レリーフは前に出てデルを見つめる。
「いいでしょう。皆さんも私たちの戦いを見ていて下さい」
デルは髪を掻き上げ不敵に笑う。
「デル先生、オイラも胸を借りてもよろしいでしょうか」
キラキラした目をしながらパムも前に出る。絶対コイツはセクハラ的な意味だろう。
「ダメです。自分の胸で我慢しなさい」
パムはしょんぼりしながら自分の胸をモミモミしている。あぶねーな、デルの機嫌が悪かったら血祭りに上げられてるぞ。
「それでは先生お願いします。私はさらなる筋肉を手に入れました。自分の強さを試してみたいのです」
「そうですか、それは楽しみですね。森人格闘技4000年の歴史を体験させてあげましょう。柔よく剛を制する。剛よく柔を断つです」
ん、柔よく剛を制するっていうのは聞いた事があるが、その続きは初めて聞いた。
「「よろしくお願いします」」
2人は拱手すると、間合いをとって身構える。
改めて見るとレリーフはデカい。2メートルは超えてるのではないだろうか? 奴の筋肉に対する執念は凄まじいというか、もはや妄信、いや狂気すら胎んでいる。奴は初めて会った時より明らかに身長が伸びている。奴の言う所によれば、筋肉量を増やすために、手足の骨を折って引っ張ったままエリクサーで癒やして、少しづつ手足を伸ばしたそうだ。
レリーフの構えはピーカブースタイル。握った拳を脇を締め顎の所で構えている。腕や肩の筋肉は盛り上がり、まさしく肉の壁。
それに対するデルはスタンダードなファイティングポーズだ軽く拳を握って脇を締めている。デルが構えるのは珍しい。いつもは両手を自然に下げた無形の位なのに。レリーフを脅威と認めたって事か。
しばし対峙し、仕掛けたのはレリーフ。軽いワンツージャブをデルは体捌きでかわす。そしてストレート、デルはそれを両手をクロスさせてガードするが、大きく吹っ飛ばされる。宙を舞い華麗に着地する。
「さすがね。レリーフ。もう力と攻撃力では私を超えてるみたいね」
「ありがとうございます。今日、私はあなたを超えてみせる」
「私を超える? 面白いわね。次は私が攻撃するわ。反撃してもいいから上手く凌いで私を超えていきなさい」
デルの目がギラギラ光る。ヤバい本気なんじゃ? なにかやってんだレリーフ、筋肉つけたくらいで調子にのってんじゃないよ。デルは無手スキル無しでは剛力マスターの僕をぶっ倒すような化け物なのに。
「いきます」
デルの姿がブレたと思ったら、レリーフの前に進み出て、そのまま殴る殴る殴る。
ズガガがガガガガガガガガッ!
人が人を殴る音ではあり得ないような音が鳴り響く。レリーフの腕が赤くなる。スゲェしのいでいる。そして、デルは連打を止めると、構えを解きレリーフの前に立つ。レリーフは依然構えたままだ。なんと、デルの攻撃をしのぎやがった!
「凄いわね。レリーフ、とっても強くなったわね」
デルは慈愛に満ちた笑顔でレリーフを見る。だが、それを見返すレリーフの顔には余裕が無い。
「よくやったわね、私の攻撃を耐えるなんて。けど、どんなに筋肉を鍛えても、その継ぎ目の急所を鍛える事は出来ない。攻撃を体で受ける時は、その急所を反らしなさい。もっと技術を磨きなさい」
「グッググッ、腕、腕がっ」
レリーフは身を震わせたかと思うと、その両手がダラリと下がる。
「終わりよ」
デルの華麗な前蹴りがレリーフの顎をかち上げ、その意識を刈り取った。
そう言えば、デルは柔よく剛を制するとかなんとか言ってたが、完全力押しだったような……
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。